人間のいびつさも愚かさも猥雑さも渾然一体となって渦巻くロックンロールという表現を、どこまで高純度な衝動の炸裂として研ぎ澄ませることができるか。
クラブミュージックの密室感とダンスフロアの躍動感とライブハウスの熱狂、つまり人間が情熱を解放するためのさまざまなスタイルをすべて継承しつつ、これらをどこまで高次元まで導くことができるか——。
BOOM BOOM SATELLITESの音楽が体現していたのは、まさにそんな途方もない、しかし切実なロマンそのものだった。
ということを、彼らの19年に及ぶ歴史を焼きつけたベストアルバム『19972016』はまっすぐに提示してくる。
監修・編集・マスタリングを中野雅之が手掛けた今作には、2010年に発売された2枚組ベスト盤『19972007』のリマスター盤『19972007 -Remastered-』、そしてその後2008年以降の音源をラストシングル“LAY YOUR HANDS ON ME”まで収録した後期ベスト2枚組『20082016』のCD計4枚にバンドの足跡が凝縮されている。
ハイブリッドな輝度と硬質なヘヴィネスに満ちた音像越しに、ロックンロールの美学そのものを鮮烈にアップデートしてみせたBOOM BOOM SATELLITESの道程が、“DIVE FOR YOU”、“BROKEN MIRROR”といったシングル曲はもちろんのこと“KICK IT OUT”、“MOMENT I COUNT”などキラーナンバーも網羅した今作からリアルに浮かび上がってくる。
なお、上記CD4枚をパッケージした「初回生産限定盤」のほか、『19972007 -Remastered-』は「通常盤A」、『20082016』は「通常盤B」としてそれぞれ個別にも発売される今作『19972016』だが、ここではぜひとも「初回生産限定盤」で入手することをお勧めしておきたい。
その理由は何と言っても、「初回生産限定盤」に4CDとともに収録されているBlu-rayディスク=「DISC5」にある。
「LIVE AND DOCUMENT」と題された「DISC5」には、2008年以降のツアーをはじめとしたライブの模様や、フジロック/サマーソニックをはじめとしたフェス出演時の映像まで(結果的に最後のライブアクトとなってしまった2015年8月の「WILD BUNCH FEST.」も含め)ダイジェストで収録されている。
そして、映像の最後に収められているのは、2015年12月に行われた“LAY YOUR HANDS ON ME”の制作風景。
川島道行の闘病という現実を前に、「これが本チャンだと思ってもらったほうがよくて。もう録れないかもしれない」と語りかける中野。「いま、今日できることを」と静かに、しかし確かな覚悟とともに答える川島——。
最後の最後まで音楽とともに生き、音楽とともに闘い続けてきたBOOM BOOM SATELLITESの姿を、その映像は克明に伝えてくる。
「僕たちが作ってきた音楽は、トレンディなものではない、ずっと聴き続けられる音楽だと思うし、そこには川島くんと僕のいろいろなものが宿っていて——」
映像の中で、中野はそんな言葉で自らの想いを語っている。ロックンロールという怒濤の大海に冒険を挑み世界を揺らし続けたふたりの唯一無二の軌跡を、今作で改めて感じてほしいと思う。(高橋智樹)