【今週の一枚】孤高のバンドKing Gnuが新アルバム『Sympa』で共鳴を目指したのはなぜか?

【今週の一枚】孤高のバンドKing Gnuが新アルバム『Sympa』で共鳴を目指したのはなぜか? - 『Sympa』『Sympa』
現在のバンドメンバー4人が揃ってから2年ほどの活動で、ライブシーンを席巻する強烈な存在感を示しつつ、知名度を高めてきたKing Gnu。「トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイル」と称される彼らの音楽表現は、ロック、ソウル、ヒップホップ、エレクトロ、エクスペリメンタルにクラシックetc.を咀嚼・吸収し、優れた知性と直感で纏め上げるスタイルだ。音楽ファンが今か今かと待ち望んでいたKing Gnuのブレイクスルーに、絶好のタイミングで届けられるメジャーデビューアルバム(通算2作目)『Sympa』は、「シンパ(同調者)を募る」という意図が込められたタイトルからも窺えるように、King Gnuの可能性を押し広げながらリスナーに向けて熱く率直に呼びかける作風になった。

現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2月号で担当させてもらったインタビューでは、メンバー同士のさまざまな音楽的トライアルが、新作『Sympa』の中に結実していることが読み取れる。詳しくはぜひ誌面で確認していただきたいのだが、もともと常田大希(G・Vo)によるプロジェクト=Srv.Vinciにルーツを持つKing Gnuは今や、メンバー間の化学反応が極めて重要なバンドになっているということだ。世界のどこにも前例の見当たらないミクスチャーの配合を探求し、サウンドの刺激を追い求めてそこに扇動的なメッセージを乗せるということ。不特定多数の人々をシンパにしてしまう今のKing Gnuの根底には、メンバー全員が能動的な実験に取り組み、エネルギーを放つ構造がある。『Sympa』の収録曲はすべて、その産物である。


ライブシーンの台風の目となる一方で、2018年のKing GnuにはTVアニメ『BANANA FISH』のエンディング曲として“Prayer X”を提供するというトピックもあった。井口理(Vo・Key)による美しくエモーショナルな歌声が軸になったナンバーである。一方、先ごろMVが公開された“Slumberland”では、常田によるワイルドで挑発的な拡声器パフォーマンスが印象的だ。『Sympa』では、まるでクラシカルな声楽曲のように普遍的な美曲“Don’t Stop the Clocks”や、アルバムをクライマックスに導く名バラード“The hole”(《あなたの正体を/あなたの存在を/そっと庇うように/僕が傷口になるよ》というフレーズが感動的)といったナンバーで、とりわけ井口の歌唱力が光っている。これだけ極端に振り切れた楽曲を盛り込みながら、King Gnuという音のブランドを堅持している点には舌を巻くより他にない。メンバー間の実験がそのまま、多様な嗜好の受け皿となっている。

「シンパを募る」というアルバムの意図は常田のインタビュー発言に倣ったものだが、『Sympa』というフランス語にはもともと「かっこいい」という意味があるのだそうだ。言うなれば、King Gnuの4人が「かっこいい」を追求した先に、「シンパを募る」という結果が付いてくるのかもしれない。あなたが後生大事にしている「自分らしさ」とは、どのようなものだろうか。King Gnuは飽くなき実験の果てに、極めてバリエーション豊かな「かっこいい」を見つけている。さまざまな影響に晒され、変化を求め、それでも残された「変わることのできない自分らしさ」こそが、今のKing Gnuのブランドになっているのだ。

このアルバムは新鮮な驚きをもたらすだけでなく、新しい時代のスタンダードになるだろう。King Gnuは、誰よりも自分たちが変わることを恐れなかった。メンバー同士で切磋琢磨し、探り合い、残されるべき「自分らしさ」を見つけたからだ。歴史の中で生き残ってきたロックのアティテュードとは、決してロックを後生大事にする保守的な感情などではない。混ざり合い、ぶつかり合い、そして残された一欠片の眩い核が、各時代のロックのアティテュードとなってきた。King Gnuの4人は、今まさにそれをやっているのである。(小池宏和)

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