今週の一枚 降谷建志 『Prom Night』

今週の一枚 降谷建志 『Prom Night』

降谷建志
『Prom Night』
2015年12月16日(水)発売


1997年のDragon Ashのメジャーデビューから、降谷建志のソロデビュー作品リリースまで実に18年。だが、今年6月に発売されたソロ1stアルバム『Everything Becomes The Music』で多くの人が驚いたポイントは「これまで18年間一度もソロ名義の作品を出していなかったのか」ではなく、むしろ「Dragon Ash・Kjとしてあれだけ全方位的なロックを撃ち放ってきた降谷建志の奥底に、なおもここまで豊潤な音楽世界が広がっていたとは」だろう。そして、アルバム後初となるこのシングル『Prom Night』に触れた時、あの『Everything〜』すら彼の表現領域の一部に過ぎなかった、ということを改めて知ることになる。

《日々の隙間 埋める様にこぞって/君の好きな ぎこちないステップ踏み踊っておくれ/星が陰るまで》という言葉と3拍子のしなやかな音像の中、「音楽の鳴り響く場所」への愛しさを決然とした歌に託したタイトル曲“Prom Night”。オルタナ〜ピアノエモの凛としたサウンドから一転《that's why play Rock hard(だから激しくロックしよう)》のフレーズをきっかけに80s風ハードロックなエンディングへ突入する“Unchain My Heart”。《hopefully you can release your distress(君が苦悩を取り去れたらいいな)》という包容力あふれる歌詞が、シガー・ロスあたりにも通じるシューゲイザー的透徹感に満ちたサウンドと響き合う“Late Hours”……同じアーティストの同じロックの肉体性から繰り出される音楽ではあるが、Dragon Ashで鳴らす「“僕ら”の共闘の音楽」と、「“僕”のパーソナルな視線の音楽」というフィルターを通して放たれるソロ・降谷建志の歌は、明らかに異なる表情を持っている。

「ロックバンドにしかロックは宿らないと思ってる。だから、そういう部門でDragon Ashに対抗しようとしても、俺一人では到底無理だし。長年やってる自分のバンドのメンバーに自信があるからこそ、そこでは闘えない。だから、バンドではできないことをやろうっていうことですよね。その分、メロディの可能性は無限だし」(『7ぴあ』2015年6月号より)

『Everything〜』リリース時に筆者がインタビューした際、彼はそんな言葉でソロとバンドとの関係性について語っていた。「音楽を鳴らすこと」を「Dragon Ashという運命共同体のロックで時代と/シーンと/己と闘うこと」と同義として生きてきた表現者が、Dragon Ash最新アルバム『THE FACES』とそのツアーの達成感を得て初めて「音楽を鳴らすこと」を「個人・降谷建志の想いを歌うこと」に直結させ、すべての演奏をひとりで手掛けて完成させた『Everything〜』。そしてその後、盟友メンバーを迎えて行ったソロでのライヴ活動を通して「ロック」「ライヴ」と「降谷建志」の新たな関係性を築いた彼の音楽探究は今、さらに刻一刻と深化しつつある――という現在進行形の物語を、2015年の終わりに届いたこの1枚はどこまでもリアルに伝えている。(高橋智樹)
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