今週の一枚 神様、僕は気づいてしまった『神様、僕は気づいてしまった』

今週の一枚 神様、僕は気づいてしまった『神様、僕は気づいてしまった』
7月26日にリリースされた神様、僕は気づいてしまったの『神様、僕は気づいてしまった』。1stミニアルバムにして自身のバンド名が付けられたこの作品は、彼らのコンセプトとして掲げているものが明確に示された作品と言っていいだろう。

今作には、シングルとしてリリースされドラマ『あなたのことはそれほど』の主題歌となった“CQCQ”をはじめ、YouTubeでMVが公開されていた、TVアニメ『ちるらん にぶんの壱』主題歌“僕の手に触れるな”、SQUARE ENIX『スターオーシャン:アナムネシス』主題歌“だから僕は不幸に縋っていました”のほか、どこのだれか(Vo・G)が作詞作曲した楽曲2曲含む、計7曲が収録されている。

東野へいと(G)とどこのだれかという、ふたりのソングライターによって制作されたこのアルバムだが、全てが「神様、僕は気づいてしまった」というバンドコンセプトにもとづいていて、先にドラマ主題歌として話題になった“CQCQ”も目立ちすぎることなく、このアルバムの色の中に溶け込んでいる。つまり、全ての曲に一貫したものがあるということだ。

人間の強欲さに辟易しているかのようなさまを歌った“わたしの命を抉ってみせて”、絶望の中で生きていくことを「宣戦布告」と表した“宣戦布告”、人生は後悔だらけだと、それでも助けを求めたいと願う“CQCQ”。そして、他人の優しさを信じられず臆病になる“僕の手に触れるな”、未来に希望を持てない自分を罪深いと歌う“天罰有れかしと願う”。大人になることへの不安と失望と少しの希望が詰まった“大人になってゆくんだね”、最後に、自分を否定的に捉え必要のない人間と嘆く“だから僕は不幸に縋っていました”。

こう並べるとわかるが、全ての曲が生きることへの「絶望」だったり、「不安」、「失望」、「後悔」という、人間、誰しもが生きていく上で、表には出さずとも、少なくとも考えたことがあるだろうネガティブな思いが描かれている。さらにそれぞれの曲の歌詞に、「不幸」、「天罰」、「未来」、「命」、「希望」、そして「神様」など、キーワードとなる概念のような言葉が散りばめられている。そのワードがあることによって、アルバムのコンセプチュアルな部分があぶり出されている。

前述したように、このバンドの曲は、人間が人として生きていれば感じる生きづらさのような感覚が、とても鋭利に、鮮明に描かれている。音楽を聴く人というのは、よく「◯◯の歌を聴いて元気をもらった」とか「△△の曲に背中を押してもらった」とか、ポジティブな感情を抱くと思う。しかし、このバンドの曲は、違う意味で、リスナーに寄り添っているのだと思う。無理にポジティブなことを言うのではなく、人間の陰の部分だったり辛さだったり絶望だったりを、代わりに提示することで、聴く人全てを肯定しているのである。だから、ひとりで抱え込んでいた人は勇気づけられるだろうし、逆に自分の中に潜んでいた思いを明かされ、向き合うことになる人もいるだろう。そして、「肯定」とはつまり「ポジティブ」なのである。

神様、僕は気づいてしまったは、顔が見えないバンドである。それは、逆に、誰の顔を当てはめることもできるということである。それは、自分の顔でも有り得るということである。誰の中にもあって、表には出したくない陰の感情を代弁する、そんな性格が露わになった今作。
このアルバムをもとに、8月の「SUMMER SONIC 2017」ではバンド初のライブが控えている。今後、そうやって活動が広がることで、このバンドの掲げている世の中に対する反逆精神のようなものが、どう受け止められ、そしてバンドはどこへ向かっていくのか。バンド名を冠した作品だからこそ、バンドとしてのアイコンとなり得る一枚となっている。(中川)
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