オリジナルアルバムとしては、『TOWA』以来約2年3ヶ月ぶりとなる作品。なのだけれども、その間のデビュー20周年を迎える動きというのが本当に凄まじかった。『ROCKIN’ ON JAPAN』2018年5月号の表紙巻頭インタビューでも詳しく語られているが、ゆずの20周年は多くの人々に愛され祝福されるアニバーサリーだっただけではなく、ふたりがゆずとして新しいギアを入れ目一杯アクセルを踏み込むための口実だったように思えてならない。
オールタイムベスト盤を携えたアニバーサリーツアーの直後、どんなスケジュールで制作したんだという濃密なEP2作の連続リリースがあり、各地大型夏フェスを巡ってまたもや全国ツアー(+アジア3公演)を行った2017年。恒例イベントだった「冬至の日ライブ」は原点の地である横浜・伊勢佐木町で一旦のファイナルを迎えたが、2018名の新メンバーを募って総勢2020人の大合唱を繰り広げる新曲MV“うたエール”は、伊勢佐木町であらためて盛大な産声を上げるさまをビデオに残した。ゆずは、驚異的な速度で変態し羽化するように、アニバーサリーの先の最新フェーズへと向かったのだ。それが、新作『BIG YELL』には収められている。
『謳おう』、『4LOVE』というEP2作からの計4曲と、配信シングル曲“恋、弾けました。”はすでにツアーで広くファンに共有されている上、北川悠仁が若きシンガーRUANに提供した「スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』」主題歌は晴れてゆずバージョン“TETOTE (YZ ver.)”としてお目見え。パンチの効いたコーラスが熱い。これだけでもすでに強力なアンセムがズラリと揃っている。
さらに北川曲では、オープニングの“聞こエール”やフォーキーなラップソング“通りゃんせ”が、“恋、弾けました。”に引き続きTeddyLoidとの刺激的な共同アレンジのもと届けられている。ベテランの巧と気鋭プロデューサーが楽曲ごとにさまざまなアレンジの表情を見せてくれる『BIG YELL』は、今のゆずの「巻き込み、突き動かす力」を象徴しているように思える。彩り豊かなアレンジは注目すべきポイントだが、ほっこり人懐っこい丸裸のフォーク“ガイコクジンノトモダチ”も収められていて抜かりない。
一方の岩沢厚治曲は、アルバムの後半にズシリとした手応えを残す作曲“風のイタズラ”と“存在の証明”が素晴らしい。《それは戯言 キレイゴト クサイ台詞でも構わない/本当の言葉 (笑)でごまかさないで》(“存在の証明”)。シーンの先頭を走り続けた20年の、無数の困難に鍛えられ研ぎ澄まされたグッドメロディと率直な言葉が、どうにか毎日を取り繕いやり過ごそうとする嫌らしい気持ちを見透かしたように、聴こえて来る。ずっと前にもこんなふうに、ゆずの素朴な歌の前に立ち尽くしたことがあった。1999年、“くず星”を聴いたときだ。
無責任な応援歌が苦手なのは昔も今も変わらないけれど、ゆずはデビュー21年目を迎えるにあたって意識的にエールとしての作品を生み出そうとし、すでに多くの人々を巻き込んでいる。彼らは、「自分自身にエールを送りたい」すべての人めがけて、ツールとしての歌を投げかけているのだ。だから『BIG YELL』は“聞こエール”に始まり“うたエール”に終わる全13曲なのである。初回生産限定盤には、昨年約16年ぶりに出演したROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017をはじめとした各地夏フェスにおけるハイライト映像や、生配信された「冬至の日ライブ ファイナル」といったアニバーサリーイヤーの一端も収録。本作を携え、この4月末からは最新アリーナツアーへと乗り出すことになる。(小池宏和)