今週の一枚 GLIM SPANKY『BIZARRE CARNIVAL』

今週の一枚 GLIM SPANKY『BIZARRE CARNIVAL』
《もしこの世が 窮屈だと思い込んでいたら/閉じ籠もらないで 外に向かったらいい/壁の上(Yeah)登れば何か見えてくる》と突き上げるオープニングナンバー“THE WALL”。
そして、「全人類に届く日本語ロックを」という壮大な理想を追求する自らの在り方を《尖り抜いた孤高の旗を振れ》というメッセージに託す最終曲“アイスタンドアローン”――。

あらゆるネガティビティを振り切る疾走感ではなく、困難も苦悩もすべて抱き締めながら前へ先へと歩み続けるようなこの2曲のタフで雄大なビート感とシビアな詞世界のモードは、今のGLIM SPANKYのマインドをリアルに物語っている。
というかある意味、本来の「GLIM SPANKYらしさ」が、フルアルバム3枚目にして初めて顕在化した作品であるとも言える。

「ロックって、希望を求める音楽であり、暗くてもどこかに希望があるべきだと思うし。ロックが怒りを歌っているのはなぜかと言うと、愛を求めているし、希望を求めているからなんですよね。その愛や平和や希望が、現社会で思い通りにいかないから、そこから生まれる怒りを歌っている」

僕が初めて松尾レミ&亀本寛貴のふたりにインタビューさせてもらった時(『ROCKIN’ON JAPAN』2016年3月号/2ndミニアルバム『ワイルド・サイドを行け』リリース時)、すでに松尾はそんな言葉で自らの明確なロック観を語っていた。
その「怒り」を原動力としたドライブ感が炸裂した“怒りをくれよ”(映画『ONE PIECE FILM GOLD』主題歌)も、凄絶なまでのハードバラード“闇に目を凝らせば”(湊かなえ原作の映画『少女』主題歌)も、GLIM SPANKYの音楽世界を象徴する楽曲であることは間違いない。
が、それらはいずれも「GLIM SPANKYらしいものを」というオーダーに応えてふたりがその時点での最適解を「導き出す」というトライアルの産物でもあった。

しかし――『SUNRISE JOURNEY』、『Next One』という2枚のアルバムを経て、ふたりはこれまで以上に尖っていて、いびつで、自由奔放な今作『BIZARRE CARNIVAL』の制作を通して、己に渦巻く感情と決意を伸びやかに解き放ってみせた。
“BIZARRE CARNIVAL”〜“The Trip”の、童話とブルースが微笑み合うような幸福感。“美しい棘”〜“白昼夢”が照らし出す永遠のイノセンス……1曲1曲が描く風景と表情はどこまでも豊かで、鮮やかだ。

《どこにもない/縛られるものなどない/宗教や戦争も僕にはないのさ/転がる石の様に 吹き抜く風の様に/ブレやしない 魂を握りしめている》

今作のリード曲“吹き抜く風のように”で、松尾レミはそんなふうに歌っている。ロック大国・アメリカですらロックがメインストリームから追われつつあるこの時代に、しかもロックが「戦う対象」を持つことが難しいこの国で、それでもロックこそが音楽の希望であることを信じて日々、意気揚々と切磋琢磨し続ける――そんなGLIM SPANKYの現在地が、この3rdフルアルバムには確かに焼き込まれている。(高橋智樹)
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