【今週の一枚】Mrs. GREEN APPLEの新曲“僕のこと”は敗者にも寄り添う人生の応援歌

【今週の一枚】Mrs. GREEN APPLEの新曲“僕のこと”は敗者にも寄り添う人生の応援歌 - 『僕のこと』通常盤『僕のこと』通常盤
Mrs. GREEN APPLEの最新シングル表題曲“僕のこと”は、「第97回全国高校サッカー選手権大会」の応援歌として書き下ろされた曲だ。しかし一般的な応援ソングとは様相が違っている。

サッカーは団体競技なのに、冒頭、大森元貴(Vo・G)はアコースティックギターを弾きながら、《僕と君とでは何が違う?》というふうに歌っている。努力すれば夢は叶うというようなことは一切言わず、それどころか《奇跡は死んでいる》と歌っている。選手を鼓舞するようなアッパーチューンではなく、バラードであり、もの悲しい雰囲気さえある。これは明らかに敗者側の曲だ。

幕張メッセであれほど華やかにワンマンライブをやったバンドが、どうしてこんな曲を作るのだろうか。そう疑問に思う人もいるかもしれないが、逆に、あの幕張を観た人、そうでなくともこれまでミセスの音楽に救われた経験がある人ならよく分かっているんじゃないかと思う。人生のありとあらゆる出来事に光と影があるとするならば、その後者の方をどうしても無視することのできない、悲しく、やさしい青年が、このバンドのソングライターなのだということを。そして、5人一緒に音を合わせ、「それでも」ともがきながら光の方へ手を伸ばし続けてきたのがこのバンドなのだということを。

歌に呼吸を重ねるように、若井滉斗(G)、山中綾華(Dr)、藤澤涼架(Key)、髙野清宗(B)の音が加わっていき、壮大なオーケストレーションと結びつく展開は、聴き手の抱える影を一つひとつ浄化させていくようで感動的だ。あれが青春だったのだと気づくことができるのは青春を過ぎたあとであるのと同じように、過去の傷や痛み、つらさや苦しさのことを認め、《ああ なんて素敵な日だ》と讃えることができるのは、その出来事から少し時間が経ってからである。作り手側が高校サッカーを、青春という「点」で起こる一過性の出来事ではなく、人生という「線」におけるかけがえのない財産として捉えていなかったとしたら、このような人生賛歌は生まれてこなかったかもしれない。

Mrs. GREEN APPLEは次の4月に結成6年目に突入する。あの頃よりも少し大人になった5人の姿が、この1曲から透けて見えたような気がして、なんだかグッときてしまった。だからこそ、ここから先、バンドがどう進んでいくのかが気になるところ。これまでの総決算的なアルバム『ENSEMBLE』のリリース。昨年末に行った、土壌を踏み圴し、改めて整えるようなツアー。そして過渡期の作品と言える本作。これらを経て、2019年以降のミセスはどこへ向かっていくのだろうか。引き続き追っていきたい。(蜂須賀ちなみ)
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