“風に吹かれても”では、笑顔さえも解放しながら曖昧さを軽やかに肯定してみせた。“ガラスを割れ!”では安心の殻を破り野性を取り戻すように外向きのエネルギーを発しながら激しく世界を煽ってみせた。そしてこの“アンビバレント”では二律背反状態で揺れ続ける自分たちの内側にある本音中の本音をまっすぐに見つめてみせた。3つの表題曲に共通しているのは、否定的な感情の本質部分を汚すことなく、それを肯定的な表現に転じて見せているところだ。そして特に“アンビバレント”は、その否定と肯定の二律背反性そのものを音楽とパフォーマンスの力によって、矛盾を孕んだ難解なものでなく、より多くの人が共感できるポップミュージックにすることに成功している。
《孤独なまま生きていきたい》と《だけど一人じゃ生きられない》
《ちゃんとしていなくちゃ愛せない》と《ちゃんとしすぎてても愛せない》
確かにアンビバレントなふたつの感情が、僕たちの中にどちらも否定できないものとしてはっきりと存在している。欅坂46はそれを自分たちの体を通して音楽とパフォーマンスで実体化することで、その衝撃性も大衆性も増しながら、より多くのオーディエンスと濃く純度の高いコミュニケーションを紡ぐ、さらに未だ存在したことのないアイドルへと進化している。その可能性はいよいよ計り知れないものになっている。(古河晋)