【今週の一枚】Official髭男dism『Traveler』ほど私たちの人生の旅に力強く寄り添ってくれるアルバムがあっただろうか?

【今週の一枚】Official髭男dism『Traveler』ほど私たちの人生の旅に力強く寄り添ってくれるアルバムがあっただろうか? - 10月9日発売『Traveler』10月9日発売『Traveler』
2018年4月、1stフルアルバム『エスカパレード』リリース日と同日に、シングル『ノーダウト』をゲリラリリースするという異例のメジャーデビューを果たしたOfficial髭男dism(以下ヒゲダン)。それ以降は多数のタイアップ曲の書き下ろしや楽曲制作、MV撮影のための海外遠征、全国各地での精力的なライブ活動など、初めての経験に多数恵まれ、2019年はJ-POPシーンの中心にまでその名を大いに轟かせた。メジャー1stアルバムとなる最新作『Traveler』には、そんな日々と音楽的な探求の旅の途中経過のようなアルバムにしたいという思いが込められているという。「人生は旅である」とはよく語られてきたことである。そしてヒゲダンはこれまでも、自分たちの実体験をもとにして、この現代を生き抜く人に捧げる楽曲を多く作り続けてきた。

未来を夢見ることが難しくなって久しい今日この頃、日々の生活に疲弊してしまう人も多いことだろう。災害や事故が多発することで、「人はいつどうなるかわからないのだから、会えるうちに会っておこう」という思想を持つ人々も増えてきたように思う。だがヒゲダンは“Stand By You”のように、愛する人や大切な人と長い年月を共にしていきたいという想いを、多々歌にしてきたバンドだ。今作ならば、晴れやかで洒落たポップでファンキーな“最後の恋煩い”、4人のバンドサウンドで構成された素朴な温かみを感じさせる“ビンテージ”、楢崎誠(B・Sax)が作詞作曲した“旅は道連れ”などがそれに当たるだろう。ゆったりとしたテンポと肩肘張らない音色とともに投げかけられる願いは、我々リスナーの心を軽くさせるだけでなく、「この先に夢を見てみてもいいんじゃない?」と明るく語り掛けてくれるようだ。


そして彼らの音楽が人生を照らす最大の理由は、真っ当な大人の正論だけで作られた音楽ではないからだ。映画『HELLO WORLD』の主題歌“イエスタデイ”は、愛する人への強い想いが《悪者は僕だけでいい》や《本当はいつでも誰もと思いやりあっていたい/でもそんな悠長な理想論はここで捨てなくちゃな》といった葛藤や苦悩の言葉でも表現されている。それ以外にも《痛みだけでも君に残したかった》という言葉で締めくくる小笹大輔(G)が作詞作曲した憂いに満ちた失恋ソング“Rowan”、《限りがあるからこそ 全ては美しいんだと/そんなド正論 臆病な僕には しんどすぎて聞けたもんじゃないな》と歌う“ラストソング”など、綺麗なだけではない本音や弱さが要所要所で露わになる。人生という旅において避けては通れない苦しみや摩擦から目を背けず、それを吐露する勇気。それこそ、ヒゲダンの音楽が今を生きる人々の想いの深いところまで汲み上げることができる最大の要因なのではないだろうか。


今作は“ラストソング”の続編とも思える2分弱の楽曲“Travelers”で締めくくられる。生ピアノとシンセ、デジタルとローファイという両極端なものが混在した音色とともに届けられる《さあ そろそろ行こうか》という言葉は、まだまだここがバンドの序章だと告げているようだ。いつか来るかもしれない終わりを見据えるのではなく、まだまだ続くであろうこの先に思いを馳せて、彼らは旅を続けていく。『Traveler』はそんな彼らの信念と決意の結晶だ。(沖さやこ)

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