エレクトロ感満載の近作から一転して、ピアノと、全編にわたって分厚いブラスで彩られ、サックスのソロパートまでも聞こえてくるビッグバンド的なサウンドで、ミュージカルのワンシーンを思わせるシアトリカルに愛を歌う曲となった“Love me, Love you”。もともと、エレクトリック・ライト・オーケストラやクイーンなどを彷彿とさせるような、マジカルでドラマティックな曲調、メロディ、ハーモニーはミセスの(ソングライターであるフロントマン大森元貴の)得意とするところだと思うが、今回はその「得意」に意識的に飛び込んでいる。ミュージカルやミュージカル映画で、恋に落ちた主人公が突如踊り出すような、グレイッシュな世界がカラフルに色づいていくシーンにハマりそうな高揚感があって、100通りくらいのシミュレーションをしてためらうよりも、心に従えとばかりに晴れやかなメロディが舞い上がって、聴き手の背中を押す。シンプルで、すぐにでも口ずさめる内容もチアフルだ。5分弱のなかで、「愛ってなんだ」、「幸せってなんだ」という大きなドラマを描き、生の楽器と声、コーラス、その力をフルに使って、想像力に訴えて、心にエンジンをかけてくれる1曲だろう。
カップリングでは、シンガーソングライター坂口有望とピアニストKan Sanoとコラボレートした“Log (feat.坂口有望)”と、これまでライブ会場だけで披露されていたバラード曲“春愁”を音源化し収録した。この2曲は、複雑で繊細な心、自分への愛憎を慈しむように歌う。まったく別々の曲ではあるし、サウンドのタッチも違うけれど、3曲それぞれがなんとなく気配を感じながら寄り添う1枚になっているようにも思える。EDMからビッグバンドへ、と相変わらず予想もしない方にバトンを渡しているシングル。でもしっかりと、「ミセスの曲だ」というアイデンティティがある。その自分たる匙加減が絶妙なバンドだと、改めて思う。(吉羽さおり)