いきなり規格外のアルバムだ。
“サイレントマジョリティー”、“世界には愛しかない”、“二人セゾン”、“不協和音”といったシングル表題曲とそのカップリング曲群はもちろんのこと、「初回仕様限定盤TYPE-A」、「初回仕様限定盤TYPE-B」、「通常盤」の3形態に計16曲収録される新曲も合わせると、重複曲を除いても実にトータル40曲に及ぶ楽曲が、今回のタイミングでアルバムパッケージとして一気に発売される、というボリュームだけでも十分に注目には値する。
が、最もその「規格外」感を明確に物語っているのは、その楽曲群に通底するレジスタンス精神――純粋さを守ることが「青臭い」と嘲笑される時代にあって、どこまで自分の中の蒼き少女性を己のアイデンティティとして貫いて生きていけるか?という反抗精神が、これ以上ないくらい鮮やかな青春映画のような形で結晶化されている、という点だろう。
《努力は報われますよ 人間は平等ですよ/幸せじゃない大人に説得力あるものか》(“月曜日の朝、スカートを切られた”:3形態共通収録)
16曲入りの「通常盤」は、欅坂46&けやき坂46の合同歌唱曲“W-KEYAKIZAKAの詩”の後、都市に生きる者の憂いと違和感そのもののような楽曲“月曜日の朝、スカートを切られた”で幕を閉じる。
が、2CD+DVD仕様の初回盤TYPE-A&TYPE-Bでは、“W-KEYAKIZAKAの詩”までの15曲でDISC1が終了、“月曜日の朝〜”はDISC2の頭に収録され、そこに続く物語の風景はTYPE-A/TYPE-Bでまったく異なるものになっている。
また、《制服コインロッカーに預けて/駅のトイレで着替えてしまおう》と10代ならではの冒険を歌う“危なっかしい計画”で躍動感に満ちた終幕を迎えるTYPE-Bに対して、TYPE-Aでは“危なっかしい計画”の後にもう1曲、“自分の棺”と題されたフォーキーなブルースナンバーが収められている。
《値札を貼られたしあわせが/これみよがしに並んでる/この手でガラスを破りたい/傷ついたって構わない》(“自分の棺”:初回盤TYPE-A収録)
ピースの並びを変えることで、3つのリリース形態それぞれにまるで異なるストーリー性を編み上げてみせている今作。あたかも、ハッピーエンドとバッドエンドの境目なんてそう明瞭なものじゃない、という危うくも儚いティーンエイジャーのバランス感そのもののように。
――と、ここまで書いてふと思った。もし、欅坂46&けやき坂46のことをまったく知らない人がいたとして、その人にここまでのアルバムの内容だけを説明したら、いったいその人はどんなアーティスト像を思い浮かべるだろう?と。
もしかしたら憂鬱なメッセージシンガーや切れ味鋭いラッパーかもしれないし、あるいは衝動に突き動かされたガールズパンクバンドかもしれない。
少なくとも、デビュー以降リリースしたシングル4作品をすべてチャート1位に送り込み、たった1年余りでポップシーンをリードする存在にまで駆け上がったアイドルグループだとは、微塵も思わないだろう。
《汗をかいたその分/願い一つ叶えばいいけど/取り残されて終わるだけなんだ/そう人は誰も皆/自分から諦めてしまう/よく頑張ったと/言い訳ができればいいのか》(“永遠の白線”:初回盤TYPE-B収録)
「社会/時代/人間関係の矛盾への違和感」をポップミュージックの題材としてシーンのど真ん中に投げ込む――というのは、これまでにもロックやヒップホップをはじめ幅広いジャンルのアーティストがトライしてきたことだ。
が、それをここまで高純度な形で体現し、それによってここまで急速に支持を集めることができたのはひとえに、メンバーの沸き立つエモーションが、その「蒼さ」そのものの詞世界と最高の形でせめぎ合い響き合ったからに他ならない。
『真っ白なものは汚したくなる』という、アイドルグループの1stアルバムとしてはあまりにショッキングなタイトルはしかし、どんなに闇や濁りをぶつけても決して汚れることのない「真っ白なもの」が己の中にあると信じている、いや信じたい、だから確かめたい――という少女期特有の切実な偽悪感を、ヒリヒリするくらいのリアルさとともに聴く者の胸元に突きつけてくる。
まさに今の時代を刷新しつつある少女たちが、1stアルバムというタイミングだからこそよりいっそう鮮烈に表現することのできる眩しさが、今作の3形態のどの瞬間にも満ちあふれている。(高橋智樹)
今週の一枚 欅坂46 『真っ白なものは汚したくなる』
2017.07.18 13:22