今週の一枚 サカナクション『新宝島』

今週の一枚 サカナクション『新宝島』 - 『新宝島』豪華初回限定盤『新宝島』豪華初回限定盤

サカナクション
『新宝島』
2015年9月30日



“新宝島”のミュージックビデオはこちら。

結局、音楽なのだ――サカナクションの久しぶりの新曲は、そう訴えかける。2015年1月以降、ベース草刈愛美の妊娠・出産のためライヴ活動を休止したサカナクション。彼らは10月3日に地元・北海道で初日を迎えるツアー「SAKANAQUARIUM2015-2016 "NF Records launch tour"」からライヴを再開するが、その狼煙となるのがこの11ヶ月ぶりのシングルだ。

大根仁監督の映画『バクマン。』の主題歌として書き下ろされたこの曲。その映画でサカナクションは主題歌のみならず劇中音楽も担当しているが、山口一郎によれば、当初は完全に映画とのタイアッププロジェクトとして、つまりサカナクションの物語や文脈とは切り離した形で楽曲を作りリリースするつもりであり、したがってこの後にできるであろうオリジナルアルバムには収録しない心づもりだったという。

直近のシングル、『グッドバイ/ユリイカ』と『さよならはエモーション/蓮の花』はいずれも内省的な、山口のパーソナルな心情にフォーカスした作品だった。それはアルバム『sakanaction』とそれに伴うプロモーション(テレビ番組、とりわけ『紅白歌合戦』への出演や、幕張メッセでの2デイズライヴ)において「マスに向けて拡大していく」戦略を突き詰めたことの反動でもあり、サカナクションを続ける上で新たなモチベーションを模索するためのアクションとしての意味合いを持ってもいた。そんな、外から内へ向かう表現のベクトルと、大ヒットコミックを原作にした大衆的な映画とのコラボーレションというプロジェクトの方向性に、山口は相反するものを感じていたのだ。

しかし、結果として“新宝島”は何よりもまずサカナクションの物語において非常に重要な、しかもポジティヴな意味で次の扉を開けるような楽曲になった。幕開け感のあるイントロから気持ちを昂ぶらせるようなリズムが響き、レトロなシンセサイザーの音とともに軽やかなメロディが躍る。1990年代を彷彿とさせるコンセプチュアルなサウンドは、これまでサカナクションがやってこなかったものだ。一方で歌詞では「漫画を描く」「音楽をつくる」という作業が表現者にとってどんなものなのかをシンプルな言葉で綴っている。つまり、サウンドの面でも歌詞の面でもこれまでにないほど率直に、まっすぐに突き進んでいるのがこの曲なのである。もちろん、曲名が日本の漫画におけるクラシック中のクラシックである手塚治虫『新宝島』から採られていることからもわかるとおり、漫画を題材にした『バクマン。』の世界観とも共振する部分を持ってはいるが、この曲が描こうとしているものは、むしろ「漫画」というモチーフの向こう側に透けて見える「表現」、山口の場合は言うまでもなく「音楽」そのものなのだ。漫画における「線を描く」という行為と、音楽における「曲を書く」という行為が重なったとき、“新宝島”はコラボレーションという枠組みを超えてサカナクション自身の物語において明確に位置づけられる楽曲となったのだ(そうしてコラボレーションワークのはずが自分自身の物語に同調していったことで、山口はこの曲の歌詞を生み出すのに多大な苦労をすることになったのだが)。

『sakanaction』のときのように、マスに向けて戦略的な拡大路線を採用するのでも、“グッドバイ”や“さよならはエモーション”のときのように、そのアンチテーゼとして内面に深く潜っていくのでもなく、音楽そのものにまっすぐ向かうこと。この曲が伝えるメッセージはそういうものだ。歌詞にある《丁寧に歌う》という言葉が言わんとするところはつまり、音楽を他の何物でもない音楽そのものとしてリスペクトし、信じるということなのだ。期せずして訪れたライヴ休止期間は、山口に音楽と向き合う時間をたっぷりと与えた。それと『バクマン。』という作品のもっていた「表現」というモチーフ、そしてクラブイベント「NF」やレーベル立ち上げなどといったサカナクションとしての新たな活動の形がひとつの物語として絡み合った先に、“新宝島”は生まれた――とても自然に、あるべき姿として。この、とても野心的、かつ本質的でピュアな楽曲が、練りに練られたシナリオによってではなく、自然発生的な物語の帰結として誕生したというところに、サカナクションの未来を見るような気がする。(小川智宏)

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