先ごろ公開された『ポール・マッカートニー:マン・オン・ザ・ラン』。ビートルズ解散からソロ~ウイングス期のポールの約10年間の疾走を追った、非常に見ごたえのあるドキュメンタリーです。公開を祝したミニ特集で、ロッキング・オン4月号は1973年のポールのインタビューを掲載いたします。
このインタビューで、彼は「自分たちは流行を創り出すより追いかける側だと考えていた」と語る。60年代の音楽界および文化/社会にも大きな影響を及ぼしたビートルズは常に先駆者だったので、意外な発言だ。しかし映画を観ると、ロックの土台が成熟するに伴いハードロック、プログレ、グラム、パンク……と、新派が次々に登場するようになった70年代のポストモダンな潮流をキャッチしつつ、ポールがポスト・ビートルズという課題――つまり、自分自身の遺産を越えるという最大の難関――に取っ組み合い、ソロとしての自覚を積んでいく様が伝わる。
70年代のポールは、いささかかっこ悪い存在だった。ツェッペリンやイエス、ボウイやクイーンといった連中がロックスターの「過剰」をぶいぶい振りかざしていたのだから仕方ない。だが当時から半世紀以上が経過した現在の視点で振り返ると、菜食主義、地に足の着いた家族生活、自身のメンタルヘルスを優先させる彼の姿勢等々に、むしろ今のミュージシャンは共感すると思う。疾走しながら試走していたポールの残した、今こそ発見の多いタイムカプセルを開けてみていただければと思います。(坂本麻里子)
ポール・マッカートニーの記事が掲載されるロッキング・オン4月号