ハリー・スタイルズが村上春樹とランナー雑誌で対談。

ハリー・スタイルズが村上春樹とランナー雑誌で対談。

最新作『Kiss All The Time. Disco, Occasionally.』を今週3月6日に控えたハリー・スタイルズが、なんと自身が影響を受けた作家、村上春樹と、ランナー雑誌『Runner’s World』で対談している。


ご存知のようにハリー・スタイルズは、2025年3月2日に東京マラソンを走り、3:24:07という好記録を出している。続いて同年9月21日にはベルリンマラソンにも出場し、2:59:13と3時間を切って自己記録を更新した。村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』は世界中で翻訳され、ランナーに広く愛読されているが、この対談の中でハリーも、この本に影響を受けてマラソンを始めたことを語っている。

この対談では、ハリーが質問を真剣に考えて持って行ったという。村上春樹のエッセーがそうであるように、走ることについて語りながらも、クリエイティビティ、そして「どう生きるのか」というかなり重要で深いテーマに踏み込んでいく内容になっていて、とても面白い。

その中から、いくつか印象的なやり取りを抜き出してみたい。


1)ハリー「ひとつ伺いたいんです。男として、アーティストとして、そしてランナーとしてーー何か僕にアドバイスをいただけますか?」

村上「難しい質問ですね」

ハリー「ええ、まあ、人として、という意味で」

村上「人間にとって大切なことのひとつは、矛盾を受け入れることだと思います。書いているとき、いつも自分の中に矛盾を感じるんです。だからこそ、それを理解したくて表現しようとする。……この年になってもなお、自分の中のこの混沌はいったい何なのか、と考え続けています」

「それは、アーティストとしても、一人の人間としても、あなたへのアドバイスになります。自分の中にある“汚れたもの”を、そのまま差し出すわけにはいかない。矛盾を、ポジティブなものへと変換していく必要がある。他の人たちと共有することで、自分にはそんなものはないと思っている人にも届くかもしれない。自分の内なる矛盾を、芸術へと昇華させるんです」

「ランナーとしてのアドバイスはーー矛盾はない、ということです」


2)ハリー「あなたのランニングについての本で、俺が本当に救われたのは、『音楽は不健康であるべきだ』とか、『アーティストは苦悩する魂でなければならない』という考えから解放してくれたことなんです。健康でいることこそが、長くアーティストでいられる条件なんだ、と。規律ある健やかな人間であっても、素晴らしい作品は作れるんだと教えてくれた。そのことに、すごく感謝しています」

村上「本を書くこと自体は、それほど難しいことではありません。でも、書き続けようとするなら、強さが必要です。持久力に支えられているんです。

僕が10代の頃は、ミュージシャンはみんな若くして亡くなっていました。ジム・モリソンやジミ・ヘンドリックスのように。待てなかったんでしょうねーー“速く生きて、若くして死ぬ”。でも、それは僕が望んだ生き方ではなかった。

僕が望んだのは、普通の生活を送ることです。なぜなら僕はただの普通の人間だから。でもその上で、普通じゃない小説を書く。その理想を追いかけてきました」

ハリー「マラソンを走ろうと思ったら、ものすごく規律が必要ですよね。最初から飛ばしすぎるわけにはいかない。ランニングと執筆がお互いに影響し合っている、という感覚は、ずっと自然にあったんですか? それとも、そこをあまり複雑に考えすぎる必要はなくて、ただ書くのが好きで、走るのも好き、というだけのことだと思いますか?」

村上「走ることと小説を書くことは、どちらも僕の性格に合っているんです。ランニングは、速さだけがすべてではない。僕はもともと、ボールを使うスポーツには興味がなくて。どちらかというと、自分自身と向き合い、競うものなんです」


3)ハリー「今の時代って、そこまで努力すること自体が“クールじゃない”と見なされがちですよね。その一方で、アーティストって、まるで何かが降りてくるような、ほとんどスピリチュアルな存在みたいにロマン化されている。でもあなたの作品には、“クールじゃなさ”を恐れない感じがある。

セックスや男性性を描くときも、登場人物たちは決して達人じゃない。むしろ、ぎこちなく手探りで進む場面が多い。そこには無垢さもあれば、弱さや羞恥もある。

それを読んで、自分にとっての男性性や“弱さ”の捉え方が確実に変わりました。それは意識的にそう書いていたのか、それとも書く中で見つけていったものなんですか?」

村上「僕はずっと、ただの普通の人間なんです。10代の頃も、20代の頃も、何かが特別に得意だったわけじゃない。でも大学を出たとき、会社に属してサラリーマンになるのは嫌だった。だから東京で小さなジャズクラブを始めて、自分で経営しました。作家になろうなんて思っていたわけじゃなくて、ただ本を読むのが好きだった。

でも29歳になったとき、書きたいという衝動がすごく強くなった。それで小説を書いて、そのまま作家になったんですーーいわば、思いつきみたいなものですね。でも僕自身は、妻とともにごく普通の生活を送っている、ただの普通の人間なんです。インタビューを受けると、ときどき居心地が悪くなることがある。どうして自分が特別だと思われているんだろう、と。だからこそ、小説に出てくる登場人物たちも普通の人間で、どこかぎこちなさを抱えているんです。

そもそも自分を“創造する側”だとも思っていない。むしろ、受け取る側なんです。音楽を聴くのも、本を読むのも大好きだけど、結局はただの読者であり、ただのリスナー。楽器を練習してみたこともあるけれど、続かなかった。練習が嫌いなんです。退屈で」

ハリー「ああ、それはそうですね」

2人「(笑)」


4)ハリー「ここ数年でようやく気づいたんです。作品に対する人々の反応って、必ずしも自分自身のことではないんだって。つまり、自分はそこまで重要じゃないのかもしれないって。

それに気づくのは、怖くもある。でも同時にすごく解放される感覚でもあってーー結局のところ、自分の役割は『ひとりの人間であり続けること』、そしてその過程を記録していくことなんだと。それが自分の仕事なんだって思えるようになった。人生の答えを提示して、みんなにそれを示すことじゃない。

むしろ、自分が問いを投げかける姿を、人に見てもらうことに意味があるんだと思う。だって、答えよりも問いのほうが面白いから」

村上「ええ、僕も同じです。僕の本も、提示しているのは答えではなく問いなんです。もちろん、誰が勝者だとか、そういうことを言う批評家もいますが、僕はそういう世界は好きじゃない。だから距離を置いている。むしろ、ただ走っていたい。

それに、あなたからも同じような感覚を感じます。きっと、賞を取ることや売上の数をそれほど気にするタイプではないんでしょう。本当に大切にしているのは、自分がどう生きたいかということ。

賞というのは、誰かが「あなたにはそれに値する」と判断するから与えられるもの。でも本当に重要なのは、自分自身にとって何が価値あるものか、ということです。

ハリー「僕のいる世界って、『誰が一番か』っていう意見がすごく多いんです。どれだけ売れたか、どの賞を取ったか、そういうランキングばかり。でも音楽って、すごく主観的なものだし、そんなふうに数値化できるものでもないはずなのに。

自分の人生の中で、そしてとりわけランニングを通して実感しているのは、『自分がやると言ったことを、本当にやり切れると自分自身を信じること』なんです。

自分に対して、『お前は難しいことだってできるし、やりたくない日でも起きてトレーニングできる。きついことも乗り越えられる』と言ってやれること。

そういう自己への誠実さというかーーマラソンは、誰かが代わりに走ってくれるものじゃない。音楽は、制作にも発表にも、ライブにも、自分を支えてくれる人たちがたくさんいる。でもランニングは違う。自分自身との対話なんです」

非常に興味深い内容なので、ぜひどこかで全編を日本語で出版してほしい。

ハリー・スタイルズは、前作『ハリーズ・ハウス』を発売した際も、「家」というテーマに合わせて、おしゃれなファッション誌ではなく、いきなり『House & Garden』誌で貴重な巻頭インタビューを発表していた。今回は、村上春樹との対談をランナー雑誌で発表。こうした仕掛けを見ると、ハリーのチームが非常に優秀なのだと思う。

〈ハリーの近況その他〉

新作のリリースを控え、ハリーの周辺にはさまざまな動きがある。

1)日本時間3月9日午前4時からNetflixでマンチェスターからのライブ配信


ハリーは前作のときも、NYで一夜限りのライブを行い、それを配信していたが、今回はマンチェスターから生配信される。日本時間では午前4時という非常に厳しい時間帯だが、きっとアーカイブは残してくれるはずだ。


2)ブリット・アワーズで新作初パフォーマンス
ブリット・アワーズの冒頭で、新曲“Aperture”を初パフォーマンス。ここまでしっかり振り付けが入ったステージは珍しく、とても新鮮だったし、パフォーマーとしてのレベルがまた一段上がったように思えた。これから始まるツアーも俄然楽しみになってきた。ブリット・アワーズで新作初パフォーマンス


またこのときの衣装はシャネルで、女性用のパンプスも着用している。ハリーは、男性性のあり方が問われる時代に、衣装などを通して新しい提示を試みてきたアーティストだが、その姿勢は今回のスタイリングにもはっきり表れている。

そして興味深いことに、村上春樹との対談の中でも、彼は男性性や脆さについて質問している。



3)Apple Musicのインタビューが水曜日に公開予定


4)東京でもポップアップストアがオープン

詳細はまだ分からないのだけど、日本でもポップアップストアが3月6日にオープン予定だ。

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