今週の一枚 ASIAN KUNG-FU GENERATION『ホームタウン』

今週の一枚 ASIAN KUNG-FU GENERATION『ホームタウン』 - 『ホームタウン』通常盤『ホームタウン』通常盤
ASIAN KUNG-FU GENERATION史上最もポップなアルバムだと思う。と同時に、アジカン史上最もリアルな憂いに満ちたアルバムでもあると思う。
長きにわたって反抗/苦悩/焦燥といった「蒼き衝動」を原動力としてきたロックミュージックの水脈とは、前作『Wonder Future』以来3年半ぶりとなるオリジナルアルバム『ホームタウン』は明らかに趣を異にしている。

疾走感やダイナミズムよりもビートとメロディのタフネスを軸に組み立てられた楽曲の、確かな歩みのような推進力。
空間の鳴りやロックのスケール感を最大限にブーストした前作とは一転、ボーカルも楽器音もすぐ目の前で鳴っているかのような距離感で構築された、ビビッドなパワーポップ感に満ちた音像。
そして、ミックスの重心を落とし、各パートの音のバランスを再構成し、一音ごとの機能性と訴求力をさらにブラッシュアップしてみせたバンドアンサンブル――。
それらが渾然一体となって、僕らの「終わりに向けて続いていく人生」と「そこに光るなけなしの希望」とを丁寧に、力強く奮い立たせるかのように響いてくる。

俯いていては
将来なんて見えない
ほら 雨上がりの空から
子供たちが覗いて笑う
ホームタウン
(“ホームタウン”)

2003年のメジャーデビューとその直後のブレイク以降、アジカンは常に「ギターロックの代名詞」的な存在としてあまりにも大きな期待と支持を集めてきた。
だが、今作に歌われている後藤正文(Vo・G)の視線は、「ロックを極めた時代の先導者」のものではない。音楽を愛し時代を憂える一市民としての、クールで鋭利な批評精神だ。
そして、むしろそれこそがゴッチを/アジカンを突き動かし、彼らを時代の最先端へと導き、そして今こうしてアジカンの音像をポップでナーバスでリアルなものへと塗り替えていった――ということを、『ホームタウン』はメジャーデビュー15年越しで改めて物語っている。

ねえ Boys & Girls
教えてよ そっと 夢と希望
まだ はじまったばかり
We’ve got nothing
(“ボーイズ&ガールズ”)

今作の空気感が描き出すのはまさに、灰色だったり凸凹だったりする「物語になりようのない僕らの人生」こそがロックのホームタウンである、という真摯で粋なメッセージだ。
年齢的な若さや蒼さに拠って立つものではなく、「その先」へ歩むすべての者に降り注ぐパワフルな福音としてのロック。最高だ。

アルバム本編10曲に加え、初回生産限定盤の付属CD『Can't Sleep EP』には“生者のマーチ”など5曲を収録。さらに――ご存知の通り今作には、リヴァース・クオモ(ウィーザー)、グラント・ニコラス(フィーダー)、ホリエアツシストレイテナー)といった錚々たる盟友アーティストが初の外部作曲者(作詞は浅野いにおが“ソラニン”を手掛けている)として参加している。今作の豪華共作陣については、改めて別稿で詳述させていただこうと思う。(高橋智樹)
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