今週の一枚 10-FEET『太陽の月』

今週の一枚 10-FEET『太陽の月』
ちょうど1年前、10-FEETの久々のオリジナル音源である『アンテナラスト』が出て、今年2月に『ヒトリセカイ×ヒトリズム』が出た。ニューシングルが届けられるたびに、少し背筋が伸びるような気がしてしまう。「10-FEETの新曲が届く」ということが自分の中で無意識のうちに事件性の高い事柄になっていて、ただ喜んでいるというよりも思わず構えてしまうのだ。どうやら世間にとってもそういうことらしくて、『アンテナラスト』と『ヒトリセカイ×ヒトリズム』は、オリコンチャート上でも結成20周年のキャリアハイを叩き出した。


先行配信された“太陽4号”は「京都大作戦 2017」の現場でも聴くことができたが、あらためて歌詞に向き合いながら聴いてみると凄まじい曲だ。宇宙の果て時間の果てにまで想像力を広げるTAKUMAの言葉が、どこを取っても感情の質量を備え、空気を揺らし鼓膜を揺らし心の琴線を揺らすために放たれている。完璧な音楽的価値を持つ言葉だけで出来上がった歌詞だ。ゆったりとしたフォーキーなロックソングではあるが、ときに楽曲のテンポを追い越さんばかりに放たれる言葉は、これこそがパンクの本質的なスピード感なのではないかということを思わせる。

《心が冷めてる人は本当の感動を知っています/今夜も眠れない人が沢山居ます きっと居ます》。彼らはそんなふうに、音楽が鳴らされることの確かな意味を探り、音楽が鳴る場所に意味を与える。もちろん、10-FEETがこの曲で肯定しようとしているのは音楽を奏で歌う自分たちだけではなく、音楽に手を伸ばし、音楽のもとに集まり来るすべての人々である。誰にどんな音楽が必要かなんてことは、他の誰にもわからない。しかし彼らは、「音楽を必要としている人は必ずいる」という想像の果て目掛けて、渾身の1曲を投げかけるのだ。

そして、ダブ/スカパンクの強烈なグルーヴと雄々しいコーラスに染まる“月 ~sound jammer せやな~”は、ここでは控えるけれどもある意味“太陽4号”以上に深読みしがいのあるユニークな歌詞をもっている。また、ドライブ感溢れる曲調の中でTAKUMAとNAOKIのボーカルの立ち位置が切り替わる“少し眠っていたんだ”は、瞬発力だけでなく時間をかけて普遍性を増していきそうな手応えのナンバーに仕上げられた。

それにしても、なぜこのシングルのタイトルは「太陽と月」ではなく『太陽の月』なのだろう。地球にとっての月が衛星なら、太陽にとっての月は惑星にあたる。つまり、地球のことを指しているのではないか。『太陽の月』とは遥か彼方に遠く離れたどこかの天体ではなく、目の前に広がる大地、今立っているこの場所のことだ。ジャケットのアートワークを眺めながら、そんなことを思った。限定盤に厳選収録されたライブ映像も、キャリアの中からいちいち熱い意味が切り取られた内容になっている。(小池宏和)
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