今週の一枚 エレファントカシマシ 『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』

今週の一枚 エレファントカシマシ 『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』

エピック在籍時代の楽曲を収録した『エレファントカシマシ ベスト』(1997年)。青春をテーマとして選曲された『sweet memory〜エレカシ青春セレクション〜』(2000年)。EMI中期までのシングル曲集『エレファントカシマシ SINGLES1988-2001』。日比谷野音ライブ20周年記念盤『エレカシ 自選作品集』[EPIC 創世記/PONY CANYON 浪漫記/EMI 胎動記](2009年)。ユニバーサル期のベスト『THE BEST 2007-2012 俺たちの明日』(2012年)――。
エレファントカシマシはこれまで5作のベストアルバムをリリースしているが、
今回発売されるデビュー30周年記念ベストアルバム『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』は、そのどれとも質感の異なるものだ。

たとえば「Mellow & Shout」と題された今作のDisc1の荒井由実カバー“翳りゆく部屋”から“桜の花、舞い上がる道を”へ至る流れしかり、Disc2「Roll & Spirit」の“ガストロンジャー”“デーデ”“奴隷天国”という時代を超えた衝撃ナンバー3連射しかり――エレカシのロックンロールのメロディと衝動の核心を、かくも凝縮した形で堪能できるのも、30年間の歩みを網羅したオールタイムベストならではのことだろう。
しかし、この『THE FIGHTING MAN』全体から何より強烈に浮かび上がってくるのは、環境やバンドの状況は変われど一貫している宮本浩次の、驚愕必至の魂の瑞々しさそのものだ。

時代や世間に流され翻弄されて一生を終えるのではなく、どこまでも荒ぶる「個」としての生命の手応えを確かめながら、目の前に己の道を作って進んでいくこと――。エレカシの音楽はいつだってそんな純粋な命題を体現してきたし、だからこそその楽曲とアレンジは、他ならぬロックンロールそのものでありながら、他のバンドとは常に一線を画してきた。

宮本自身の選曲による今作の30曲は、30曲中22曲がシングルであり、それ以外の8曲も“花男”“ハナウタ〜遠い昔からの物語〜”“RAINBOW”といった重要曲ばかりで、エレカシの王道中の王道を凝縮したセレクトであることは間違いない。
が、たとえば“ガストロンジャー”のささくれた徒手空拳ミクスチャー的音像や“俺の道”の♪でゅでゅでゅでゅっでゅでゅーの絶唱パートのような飛び道具的アレンジはもちろんのこと、最もポピュラリティを獲得してきた“今宵の月のように”のような楽曲においても、そのメロディもアンサンブルも今聴いても破格のクリエイティビティと輝きに満ちて響いてくる。そして、それらはロックシーンのどのバンド/どのアーティストとも明らかに異質なのである。

凍えるほどの孤独と、燃え盛る闘志と、抑え難い涙と、人間そのものへの渾身の疑義と信頼とが渾然一体となって渦巻く、唯一無二のロックンロール――。
発売前日=3月20日の大阪城ホール公演を経て、今作『THE FIGHTING MAN』のリリースとともにエレカシはメジャーデビュー30周年アニバーサリーイヤーに突入、自身初の全47都道府県ツアーへと流れ込んでいく。誰もが知っているバンド=エレカシは今まさに、誰も見たことのないロックの生命力と突破力を「その先」にでっかく轟かせようとしている。(高橋智樹)
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