現在全国ツアー中のMY FIRST STORYが、そのツアーと同名のフルアルバム『S・S・S』をリリースする。ミニアルバムやシングルなどコンスタントにリリースを続けてはいたが、フルアルバム自体は4thアルバム『ANTITHESE』以来約2年ぶりだ。
『ALL LEAD TRACKS』、『ALL SECRET TRACKS』をリリースし、フルオケ編成でのワンマンも行ったここ1年の経験はバンドにとってかなり重要なものだったらしく、サウンド面にはその辺りの活動が反映されている。バンドサウンドは十分な疾走感・重量感を誇っている一方、空白を効かせたアレンジ、ミニマムなアンサンブルで魅せる場面も。時にはクラシカルな響きを、時にはデジタルな響きを纏いながら、レンジの広い表現を行うことにより、曲の持つスケールをより柔軟に操作することができるようになった。さらに、今回初めて見られた新たな試みもある。ラップからのメタルという急展開をする“絶対絶命”などは構成面において新鮮味を感じたし、“2 FACE”ではアイナ・ジ・エンド(BiSH)がゲストボーカルとして迎えられた。
歌詞は、大きく言うと3つの特徴がある。1つ目は、「夢」という単語が頻出していること。2つ目は、曲中の主人公には自分が一人なのだという実感があるということ。そしてこれが最も重要なのだが、3つ目は、英詞において「myself」、「my own」といった言葉が多く見られること。これらの表現には「他の誰でもない、私の」というようなニュアンスが含まれる。
Hiro(Vo)はこれまでも「孤独」を歌ってきた。そして彼の歌はどことなく寂しさを感じさせるものだった。しかし本作での「孤独」は、尊重すべき「唯一人」という意味であるように思う。だからこそ語られる「夢」の裏側にまっすぐな意志を読み取ることもできる。これは大きな変化ではないだろうか。
クライマックスで転調する“マボロシサスペンス”をきっかけに、終盤はメジャーキーの曲が続く。希望に向かうような晴れやかな響きを聴いて、ツアーのZepp Tokyo公演でHiroが話していたことを思い出した。今の彼は、かつての自分と同じように、自信を持てない人に向けて歌っているのだそう。だからこそ本作は、《I will be with you forever in your heart》というフレーズで締め括られる必要があった。
本作のリリース後、MY FIRST STORYは、計5本のホール公演を経て来年1月11日、12日に横浜アリーナ公演を開催する。そこでオーディエンスと直接顔を合わせた時、いったいどんな対話が繰り広げられるのだろうか。『S・S・S』はその時初めて完成を迎えることになる。(蜂須賀ちなみ)