今週の一枚 キュウソネコカミ 『わかってんだよ』

今週の一枚 キュウソネコカミ 『わかってんだよ』 - 『わかってんだよ』初回盤『わかってんだよ』初回盤
キュウソネコカミ
『わかってんだよ』
2016年10月26日(水)発売

《ボロボロになってやっとわかったよ/あぁ僕はただ生きているだけだった 主人公気取りの脇役だった》
《何も出来ないくせにバカにして 努力も挑みもしていなかったよ》
《なんでお前は頑張れてるんだよ なんでそんなに認められてんだよ》
(“わかってんだよ”)

直球なメロディとともにヤマサキ セイヤ(Vo・Gt)が赤裸々な情熱を叩き込んでくるこの歌が、1mmも心に引っかからないという人はおそらく、よほど達観した聖人君子か完全なる世捨て人かのいずれかだろう。それぐらいの訴求力と浸透力を備えた、今後のキュウソネコカミ史上でも代表曲となっていくに違いない名曲である。

前作シングル『サギグラファー』から3ヶ月足らずというスパンでリリースされたニューシングル『わかってんだよ』。自身初の書き下ろし映画主題歌となる表題曲“わかってんだよ”でキュウソは、というかヤマサキは、これまでヤンキーやサブカル女子などさまざまな対象に向けてきた皮肉やディスりやツッコミの刃を、まるででっかいブーメランのように自分たち自身に突きつけている。

キュウソネコカミ“わかってんだよ”

とはいえ。キュウソのディスは今までも一貫して、強烈な自虐とともにあったことはご存知の通りだ。それこそ《大学デビューで/音楽漬け、/地元のDQNは更生yeah/今じゃ僕の方が/不良です、/今じゃ僕の方が/親不孝です》と歌っていた“DQNなりたい、40代で死にたい”の頃から、その音楽の原動力となっていたのは他でもない、「何者にもなれない自分」への忸怩たる想いから生まれる衝動逆噴射感だった。
しかし、《主人公気取りの脇役だった》という“わかってんだよ”のフレーズから伝わってくるのは、斜に構えた皮肉や自虐ではどうにも対消滅しきれないくらいに強烈に燃え盛る、「その先」を目指すストレートなエモーションそのものだ。

発売中の『ROCKIN’ON JAPAN』11月号のインタビューでは、この楽曲の制作時にバンドの空気感が追い込まれた苛立ちの真っ只中にあったこと、そんな中で映画『14の夜』の脚本を読んだヤマサキがすぐに「自分が主役側じゃなくて脇役側だったんだ」という歌詞を書いたことが明かされているし、《ボロボロになってやっとわかった》という言葉で位置づけられているのが他でもない、今や熱狂請負人バンドとして鉄壁の支持を獲得しているキュウソ自身だったことがわかる。

「もっとファンの人に近づきたいんですよ、この曲で。離れたくないんですよね。伝わってほしいんです」
前述のインタビューで、ヤマサキはそんなふうに語っていた。この曲の最後を飾る《あぁ俺は誇れる生き様目指し走るわ 十人十色の主役がいるんだよ》という宣誓はそのまま、ロックシーンの「飛び道具」を超えた圧倒的な存在感と包容力を求めるキュウソの「今」をこの上なくリアルに活写したドキュメントだ。

大人の生活に漂う人生の「終わりの始まり」の切なさを秋の風情とともに響かせる“秋エモい”、数多の「自称コミュ障」をポップに撃ち抜く痛快なまでの愉快犯ナンバー“こみゅ力”といったカップリング曲も含め、2016年のキュウソ極限進化を決定づける1枚だ。(高橋智樹)
今週の一枚 キュウソネコカミ 『わかってんだよ』 - 『わかってんだよ』通常盤『わかってんだよ』通常盤
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