今週の一枚 サカナクション『多分、風。』

今週の一枚 サカナクション『多分、風。』

サカナクション
『多分、風。』
2016年10月19日(水)発売

『新宝島』以来1年ぶりのシングルで、表題曲は資生堂『アネッサ』CM曲にも起用。“新宝島”はバンド前線復帰のダイナミズムが新鮮でユニークな曲調にも表れていたが、“多分、風。”は一聴すると、サカナクション流ダンスポップのど真ん中を行っている。サウンドがシンフォニーのように押し寄せては駆け抜ける、その爽快感がまずは印象をもたらすはずだ。

ところが、その爽快感を前提としながらも、この楽曲は得も言われぬ感情の揺らぎを余韻として残してゆく。メロディラインはノスタルジックなポップスの響きを伝え、そもそもは近未来的なイメージと密接な関係を持つことが多かったテクノ/エレクトロポップも、サカナクションの世代感覚にかかればノスタルジーとして捉えられ得るのだ、という点が興味深い。

山口一郎は、“多分、風。”の歌詞を、「あの子」との出会いの鮮烈な一瞬の記憶として詩的に綴っている。

《今アップビートの弾けた風で/口に入った砂》

《誰もが忘れる畦道を/静かに舐めてく風走り》

ざらついた口腔内の砂の感触。畦道と共に肌を撫でる風の感触。そんな触覚の具体的な記憶が、出会いの鮮烈な記憶とない交ぜになってメモリーされている。美化されることも風化することもない、真空パックされた記憶だからこそ、ノスタルジーは強く訴えかけてくるのだ。過ぎ去ったあの一瞬だけに用がある。それを明瞭なまま呼び起こすため、すべてが最も効果的に、周到にデザインされた一曲だ。

一方、カップリングの“moon”は、月面探査プロジェクト「au×HAKUTO MOON CHALLENGE」のテレビCM曲。オーガニックとエレクトロニックが絶妙に融和し、ハーモニーコーラスの膨らみに至るまで神秘的な楽曲だ。コズミックな浮遊感に包まれながらも、人類にとって古い友人か恋人のような存在の月に思いを馳せる、そんなロマンチックな親しみと情緒が込められている。耳馴染みのあるフレーズだと思ったら、“Ame(B)”リミックスにも採用されたメロディを完成させたものだそうだ。

藤原ヒロシが手がけたダブ風の“ルーキー”リミックスもまた、サカナクションとファンの記憶の奥底に手を伸ばすような作風。ポップミュージックの先端を行くサカナクションは、今回のシングルで五感と情緒、そして記憶といった、人間のもっとも人間らしい部分に激しく揺さぶりをかけてくる。(小池宏和)
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