MY FIRST STORY
『ANTITHESE』
2016年6月29日（水）発売

“不可逆リプレイス”“ALONE”という2大シングル曲に加え、トレーラー映像内で「NEW SONG」として公開されていた新曲“The Puzzle”、そして先行配信されていた“Missing You”という計4枚のカードがオープンされた時点で、MY FIRST STORYの4thフルアルバム『ANTITHESE』がロイヤルストレートフラッシュ級の名盤であることは容易に推測できた。

が、14曲揃った今作の「全体像」はすごい。こちらの想像の斜め上どころか遥か頭上を轟々と飛翔しながら、鳴った場所すべてをロックのバトルフィールドに塗り替えるような、壮絶な1枚だった。「進化」とか「革新」とかいう言葉では因数分解できないハイエナジーな爆発力が、今作には隅々にまで渦巻いている。

MY FIRST STORY / NEW SONG
【Official Trailer】

MY FIRST STORY -Missing You-
【Official Video】

ご存知の通りMFSは、2014年10月に前作アルバム『虚言NEUROSE』をリリースした後、昨年にはSho（G）がライブ活動の休止を発表、さらに今年3月にはMasack（Dr）が脱退を表明。オリジナルメンバーのうちふたりがステージを去るという大きな転機を迎えている。なお、前述の「NEW SONG」こと“The Puzzle”は、Masackの脱退と同時に新ドラマー=Kid'zの加入を発表した際のトレーラーで公開されたものだ。

11月には初の日本武道館公演の開催が決定するなど、バンドを取り巻く状況が急激に拡大し、リスナー／オーディエンスの支持の熱量が天井知らずに高まることで生まれる期待感の上昇気流――それはロックバンドが高みを目指す上での最大の原動力である。と同時に、メンバーひとりひとりの心の中に「真っ向から迫ってくる途方もないスケールの期待を、果たして自分は引き受ける資格があるのか？」という自問自答と軋轢を生む最大の要因にもなり得る。

Hiroが喉も裂けんばかりの絶唱とともに突き上げる《追い回した理想なんて／もう引っかかって曲がっていた／彷徨った幻想空間に／浮かんで沈んだ僕を覚えていて》（“The Puzzle”）というイマジネーションの世界は、Hiroら4人が葛藤と煩悶を抱えながらもさらに前へ先へと歩みを進めている切迫感がひりひりと胸に焼き付いてくる。

そして、そのアンサンブルが格段に肉体性を増したことによって、身を焦がすほどに切実なMFSのメッセージ性が、よりいっそう鋭利で強烈な訴求力を備えるに至ったことも、その音像からリアルに伝わってくるはずだ。もはやラウドロックという言葉では追いつけない、怒濤のダイナミズムとロマンを体現しつつあるMFSの、この上なくスリリングでドラマティックな「今」を凝縮したドキュメント的作品だ。（高橋智樹）