【今週の一枚】sumikaの痛みも絶望もエネルギーに変える魔力が弾けた両A面シングル『イコール / Traveling』

【今週の一枚】sumikaの痛みも絶望もエネルギーに変える魔力が弾けた両A面シングル『イコール / Traveling』 - 『イコール / Traveling』『イコール / Traveling』
2ndフルアルバム『Chime』を3月にリリースし、同作を引っ提げてバンド最大規模の全国ツアー真っ只中のsumikaが、早くも新作をドロップ。あだち充原作の読売テレビ・日本テレビ系TVアニメ『MIX』オープニングテーマの“イコール”と、現在開催中のツアーの初日と2日目の間に制作した“Traveling”を収録した両A面シングルである。タイプの異なる2曲でバンドの振れ幅を味わえるのが両A面シングルの良さのひとつだが、“イコール”と“Traveling”はまさしくそれだ。

“イコール”は『MIX』という作品に最大のリスペクトを払った、『MIX』ありきの楽曲と言っていい。イントロのギターフレーズは夏空に燦燦と輝く太陽のように眩しく、ドラムは高校球児が地を駆けるように軽やかで力強い。青春の美しさが投影されたストリングスやピアノは楽曲をドラマチックに彩るなど、サウンドにはあだち漫画的な清涼感や景色が盛り込まれている。

歌詞も作品の登場人物や作品の視聴者が心を重ねられる隙間がある、広くて風通しの良い言葉が並んでいるところはバンドにとって新機軸。だが冒頭で、《理想の自分》は《現在(いま)》とかけ離れていることを告げ、ひたすら煌びやかな理想を描くなか、最後にその《描いた理想》を《現在(いま)》に《イコール》で結び付けると高らかに宣言するところは、sumikaらしいパワフルなドラマの描き方だ。《タッチ》や《南風》という言葉が歌詞にあるのも、『タッチ』の30年後を描いた『MIX』という作品とリンクする。多くの人が共通認識として持つ「夏」や「青春」がそのまま音と化した“イコール”は、隅々まで実直。そのまっすぐな音に、理想を現実にしたい、新しい理想を描きたいという活力がおのずと湧いてきた。

一方、“Traveling”はとてもミニマムで具体的な描写から片岡健太(Vo・G)の毒とユーモアが小気味よく響く、チルナンバー。イントロの洒落たギターと“Traveling”というタイトルで甘美でドリーミーな詞世界を想像していたら、“イコール”とは真逆と言ってもいいくらい限定的な状況が綴られ、「なるほど、だから“Traveling”なのね」と笑ってしまうギミックも効いている。

だが、このユニークな言い回しや、横のりできる心地いいサウンドだからこそ、気付かぬ間にじわじわと心のなかが不安や焦燥、虚無感や痛みで充満していった。極めつけは《ひとさじの理想で/迂闊に腫れた目に/気付かれないように/瞼冷やしておくから》のライン。「“イコール”では理想と現実がイコールでつながったのに!」と、とどめを刺されるような心持ちだった。だが最後の《幸せって/なんだろうね》で、sumikaの「答えを言いきらない優しさ」を感じた。具体的な物語と主人公のリアルな心情を提示して、こちらに問いかけるからこそ、リスナー一人ひとりの思考を引き出し、新たな気付きをもたらしてくれるのだ。

照り付ける太陽と青空のような“イコール”と、ひとりぼっちの夏の夜に寄り添う“Traveling”。両極端ながらに2曲とも、なんとなく過ごしていると見逃しそうな日常を大切に愛でたい、愛でようとあらためて襟を正させてくれた。(沖さやこ)
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