今週の一枚 RADWIMPS『Mountain Top / Shape Of Miracle』

今週の一枚 RADWIMPS『Mountain Top / Shape Of Miracle』 - 『Mountain Top / Shape Of Miracle』CDジャケット『Mountain Top / Shape Of Miracle』CDジャケット


2月24日(土)の映画『空海-KU-KAI-美しき王妃の謎』公開を目前にリリースされる、RADWIMPSのニューシングル。ダブルタイトルの1曲目“Mountain Top”は同映画の主題歌として先行配信され、もう一方の“Shape Of Miracle”は挿入歌として制作された経緯がある。大作映画とがっぷり四つで組んだシングルになったわけだが、野田洋次郎が映画に寄せたコメントを一部抜粋すると「歴史大作ではありますが『今』の僕たちの物語だと思いました」と語られている。

この2曲に初めて触れたときの衝撃は、なかなか薄まることがない。“Mountain Top”と“Shape Of Miracle”は作風において共通する部分があり、例えば英語詞の歌や、静謐なピアノから壮大なアレンジへと展開するドラマティックな構成などが挙げられる。それはつまり、チェン・カイコー監督とのディスカッションを経て生み出された2曲が、深く映画作品と交わり同一の根元に通じていることを意味している。

英訳された古代漢文のように始まる“Mountain Top”は、歌の主人公が抱いた夢と、それゆえに絶え間無く訪れる孤独や迷いが歌い込まれている。もちろんそこには、映画の主人公である唐代の中国に渡った日本の僧=空海が重なって見えるだろう。歌詞の最終センテンスには、子孫=遥か後の世代を生きる我々へのメッセージが綴られている。野田はここでまさに、探求する人間の普遍的な苦悩を、映画作品から汲み取っているわけだ。

一方の“Shape Of Miracle”は、美しいぶんだけ悲しいラブソングである。野田の公式ツイッターでは、もともとこの曲の仮タイトルが「楊貴妃」だったことが語られていた。絶世の美女として名を残すと同時に、楊貴妃は時代を翻弄し時代に翻弄された悲劇の人として語られる。歌詞から立ち上る雅さや高潔さが、楽曲の美しさ、悲しさをさらに後押ししているのだ。ちなみに楊貴妃は空海が渡航する約半世紀前に亡くなっているが、「歴史を探る」こと自体が映画の物語に深く関わってくる。

何より凄まじいのは、この2曲のサウンドプロダクションである。英語詞でありながら水墨画のような湿度と東洋的な悠久の時の流れを湛えた“Mountain Top”。そして高潔さの内側に秘めた感情の渦をダイナミックに伝える“Shape Of Miracle”。日中合作映画の『空海-KU-KAI-美しき王妃の謎』がそもそも異文化交流や戦乱、陰謀といったスケールの大きな社会の人間模様を背景にしているだけに、RADWIMPSのロックもこれまで以上に巨大なユニバーサル規格で鳴り響いている。

真言宗開祖の空海は、漢詩に造詣の深い詩人でもあった(漢詩は映画の中でも鍵になる)。また楊貴妃は、音楽や舞踏に秀でた人物だったという。言わば、約1200年前の最先端アーティストだったわけだ。もしかするとRADWIMPSは、劇伴のような側面を持つ2曲の壮大なテーマ曲を制作するにあたって、歴史的なふたりの人物にシンパシーを抱いていたのかもしれない。映画が公開されたら、僕もさっそく観に出かけたいと思う。(小池宏和)
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