RADWIMPSの“正解”が話題になっている。“正解”は、昨年12月にリリースされたアルバム『ANTI ANTI GENERATION』の収録曲であり、昨年10月に放送されたNHK『RADWIMPS 18祭 2018』において制作された楽曲。番組内でのスタジオライブの模様はYouTubeのNHK公式チャンネルにて確認することができるが、今改めて観てもやはり胸を熱くさせられる。それぞれ異なる想いを抱えて収録にやってきた1000人の18歳世代とラッドの3人が一丸となり、同曲を歌い上げ、そして涙するのだ。放送終了後には、番組の再放送や“正解”の合唱譜面を求める声が多く寄せられていたという。
“正解”の動画はこちらから
月日が流れ、始まりの季節・春になり、SNSで再び盛り上がりを見せているのが今の状況。実際に卒業式で“正解”を歌ったという人もいるようだし、「歌ってみた」動画もたくさん見受けられる。このような反響を受け、現在RADWIMPS公式ホームページ内の特設サイトでは3タイプの合唱譜面を公開中。また、4月12日(金)23:59まで、合唱動画の募集も行なっている。
“正解”は、野田洋次郎(Vo・G・Piano)が自身の18歳だった頃を思い出しながら制作した楽曲なのだそう。そのため、歌詞には彼の「元・18歳」としての視点が反映されている。
全体的に言葉選びはシンプルだ。自分の話になってしまうが、私が中高生の頃は「ノートの裏表紙にお気に入りの歌詞を書く」ことが流行っていて、なかでも“有心論”や“ふたりごと”がクラスで人気だった。当時の私たちにとって野田洋次郎の言葉は、自分の青い感性ではまず思いつかないもので、だからこそ一つひとつを知るたびに感動を覚えた。振り返れば、ラッドの歌詞をノートに書く行為は、ちょっとした背伸びのようなものだったのかもしれない。
一方、“正解”の歌詞には、少年少女が自分たちの言葉として口から発しても違和感のないような、等身大に近いものが多い。特に、サビが来るたびに繰り返される《あぁ 答えがある問いばかりを 教わってきたよ》というフレーズが象徴的。このフレーズは、学生時代に誰もが一度は考えるであろう「勉強なんて本当に人生の役に立つの?」という疑問に直結している。
歌う人――今回の場合は18歳世代――が「自分事」として捉えられやすいような言葉選びがされていることが“正解”のひとつの特徴だ。しかし、この楽曲が感動的である理由はそれだけでない。冒頭から「僕」目線の歌詞が続くなか、終盤で突如文体が俯瞰的になり、これまで「僕」として描かれていた人物が「あなた」に変わる。歌詞で言うと《制限時間は》以降、譜面で言うと「N」以降の箇所。この視点の変化が非常に重要なのだ。
なぜなら、「大人が本当に大事な問題の最適解を教えてくれないのは、大人自身もその答えを分かっていないから」という事実が大人の目線から語られる唯一の場面だから。30代半ばに差し掛かりつつある、今現在のラッドだからこそ書くことのできた言葉だけがここに詰まっているからだ。野田が1000人の18歳世代に向けて「僕もみなさんと同じ」と語った真意もここに落とし込まれているように思う。番組での演奏時、1000人による情熱的なコーラスが響くなか、穏やかに歌う野田の様子は、その背中で大切なことを物語っているかのように見えた。
大人だって、間違える。大人だって、ぶつかる。大人にだって、眠れない夜はある。
“正解”は、境目の曖昧な、だけどやたらくっきりと境界線を引かれがちな「大人」と「子ども」をゆるやかに繋げ、肯定し、まるごと抱きしめてくれる歌だ。だからこそ、学生をはじめとした若い世代だけでなく、年度初めからもう一度踏ん張ろうとしている「大人」の支えにもなってくれるのだろう。
今現在そうである人から、かつてそうであった人まで。すべての「18歳」へ贈られるやさしい言葉の数々に、この楽曲が広く愛される理由、そしてソングライター・野田洋次郎の真髄を見た。(蜂須賀ちなみ)