今週の一枚 BRAHMAN『梵唄 -bonbai-』

今週の一枚 BRAHMAN『梵唄 -bonbai-』 - 『梵唄 -bonbai-』『梵唄 -bonbai-』


『超克』から、約5年。映画『ブラフマン』の公開や、幕張メッセのイベント「尽未来際~尽未来祭~」があった結成20周年をはじめとして、傍から見ていても濃密な5年間だったと思う。今作には、その間に活発にリリースされたシングル曲も数多く収録されており、彼らが彼ら自身を更新してきた歩みを感じることもできる。

彼らはここ数作のシングルにおいて、“今夜”、“ナミノウタゲ”といった「老若男女に響き得るいい歌」から、“不倶戴天”、“守破離”といった「闘志を剥き出しにしたBRAHMAN流ハードコア」まで振り幅を広げてきたが、アルバムに関してもその印象が強い。と言うか、曲中に激しい振り幅がある楽曲や、かけ離れている(ように見える)2つの要素が混在している楽曲が、数多く見受けられるのだ。

優しく繊細な音色に、力強い歌詞がのった“真善美”。攻めに攻める曲調の中に、不意打ちでポップなメロディーが表れる“雷同”。予想だにしないタイミングでグッとリズムが変わる“AFTER-SENSATION”。……これらの「ある種の歪さ」は、善も偽も、美も醜も持っている人間のリアルを表現しているように聴こえてくる。これまでもBRAHMANは、特定のジャンルをそのまま鳴らすのではなく、彼ららしく昇華して鳴らしてきたので、その求道の果てに辿り着いた今作とも言えるだろう。それが、ライブなどで人間味を見せている近年のバンドの傾向と交わり、より説得力をもって響いてくるのだと思う。
また、“EVERMORE FOREVER MORE”は、逆に真正面からメロコアに向き合ったような曲調だが、「好きなんだから避けることないじゃん!」というような姿勢はとても人間臭く、それでいてメロコアとはいえ完全にBRAHMAN流になっているところも、今これをやった意味が感じられる。

人間味は、ジャンルを超えたゲストの参加によってもたらされているところも大きい。特に、シングルに収録されていたが、新たに再録された“怒涛の彼方”は、参加した東京スカパラダイスオーケストラのホーン隊によって、さらに命みなぎる仕上がりになった。
そして、ソウル・フラワー・ユニオン中川敬HEATWAVE山口洋が、阪神・淡路大震災をきっかけに共作した楽曲であり、紆余曲折を経てそれぞれのバージョンで歌い継がれてきた“満月の夕”も、BRAHMAN流に「今のもの」として昇華されて収録されている。この楽曲は、それぞれのバージョンを混ぜ合わせ、さらに中川と山口、そしてうつみようこもゲストに迎えて完成した。楽曲が生まれた背景、2バージョンになっていった経緯、歌い継がれてきた歴史、東日本大震災の際に再び人々の心の支えになったこと、そしてBRAHMANのリスペクトや思い入れ……全てが一曲の中に詰め込まれて「今のもの」になっている。一曲がこんなに「物を語る」ことに驚かされると同時に、それを可能にさせた“満月の夕”の器の大きさに感動させられる。また「歌い継がれる」歌に向き合うBRAHMANというところにも、注目せずにはいられない。

こういった人間味溢れるアルバムに、バンド名の由来ともなった「梵」という漢字が掲げられることは、必然だったのかもしれない。どこを取っても、今の彼らが脚色なくまるごと伝わってくる、破格のエネルギーを宿した最高傑作だ。(高橋美穂)
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