今週の一枚 星野 源『YELLOW DANCER』

今週の一枚 星野 源『YELLOW DANCER』

星野 源
『YELLOW DANCER』
2015年12月2日(水)発売



めでたく紅白歌合戦初出場も決まったところで(ニュース記事はこちら→http://ro69.jp/news/detail/134718)、いよいよリリースされる星野 源のニューアルバム『YELLOW DANCER』。とてつもなく大きな肯定性を振りまく、ポップアルバムの傑作だ。しかしそれは、理不尽な権力や暴力にまみれた、クソのような世界から目を逸らし、あるいは黙認するための肯定性ではない。ポップミュージックがリアルな生活の中でどれほどの力を発揮するか、本作リリース後に我々は身をもって知ることになるだろう。

かつて、自ら歌うという行為に自信が持てなかったという星野 源は、イマジネーションの広がりとエネルギーの迸りをSAKEROCKというインストバンドの「音」に込め、言葉をもった歌はひっそりと、部屋の中で紡いでいた。本作にもそんな、夜の淵で思考の海に漕ぎ出すような、星野 源らしいプライベートなフォークソング(“口づけ”)やソウルバラード(“夜”)なども収められている。

ただ、自身の歌が多くの支持を得て大きなライヴ会場で分かち合われるにつれ、リスナー/オーディエンスのエネルギーを吸い込み、ひっそりと歌われていた歌はより強く大きな命として成長していった。本作に収録されたシングル曲“地獄でなぜ悪い”“Crazy Crazy”“桜の森”“SUN”には、そうしたキャリアの変化がもろに反映していたはずだ。加えて、星野 源が日本の歌謡曲の歴史の中で嗅ぎ取ってきた、ジャズやソウル、つまりブラックポップミュージックの躍動感が、ダイナミックなエネルギーとして注ぎ込まれている。

彼はよくステージの上から、もっと自由に、自分なりに踊ってくれ、とオーディエンスに呼び掛ける。デタラメに解放される、混沌としたエネルギーこそが重要なのだと感じているのだろう。それは江戸の昔に民衆が巻き起こしたという「ええじゃないか」の概念に近いものなのではないかと僕は思う。ぎこちなくてもいい、理不尽で横暴なしがらみを断ち切るダンスを踊れということ。『YELLOW DANCER』とは紛れもなく、星野 源の歌を躍動させた無数の笑顔のことであり、太陽のような笑顔から発せられる歌声のことだ。

最終ナンバー“Friend Ship”に辿り着いたときの感動は筆舌に尽くしがたい。この幸福な肯定性の情景がどれだけ広がってゆくかは、作品に触れたあなた次第である。(小池宏和)
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