あいみょんが「生きる」ことを明確に歌にしたのは、メジャーデビュー曲“生きていたんだよな”以来ということになる。それをしてあいみょんは原点回帰と表現してくれたが、出発点との巡り合わせを感じさせる楽曲であると同時に、長く高くそびえる螺旋階段を上り切り、最上段から起点を見つめているような確かな到達感を感じさせてくれる曲でもある。“⽣きていたんだよな”みたいな曲作ってほしいって⾔うけど、作れないよって。
⾃分がそのモードになった時に急にできるものだから。だけど、それが今、来たんじゃないかな
“いちについて”は、生きることの尊さが、その「うまくいかなさ」や、そこはかとなく漂う惨めさの向こう側で静かに歌われる曲だ。だが、そこに怒りや苛立ち、あるいは自身を含めたすべての傍観者を告発するようなシニカルな手触りはない。あいみょん自身が爪弾く柔らかなアルペジオや、すべての隙間にぬくもりをたたえたメロディに象徴されるように、厭世観や諦念ではないあたたかな受容の温度がある。そこが素晴らしいし、器大きく世界を見つめるこの感性こそが、音楽家としての大切な深まりとその末永い活躍を裏付けている聡明さなのだと思う。身も蓋もなく秒針を貪るように進んでいく時代の中で、嘆きも諦めもせず、ただ懸命に生きることを研ぎ澄まされた音楽表現に昇華してみせること。そうして、ただただ豊かな音楽を鳴らすこと。この地に足のついた姿勢こそが、世界やシーンに対する、的確で批評的なあり方になっている。
メロディ、アレンジ、歌、歌詞、詩性。すべてのクオリティにおいて、究極的な洗練を味わわせてくれる楽曲だ。とても嬉しい。その嬉しさを、ダイレクトに伝えながら進めさせてもらうインタビューになった。
あいみょんの隣で、音楽はいつも確かに深まっていく。これからもあいみょんは音楽と親密に生きていく。
インタビュー=⼩栁⼤輔 撮影=Nico Perez
(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年9月号より抜粋)
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