鴻鳥先生(綾野剛)が出生前診断に対し「産科医としての信念」を語る――『コウノドリ』第10話レポ

TBS系ドラマ『コウノドリ』、第10話は、出生前診断を受けた2組の夫婦が登場した。妊婦である高山透子(初音映莉子)と夫の光弘(石田卓也)は母体の血液を調べることで染色体異常を調べることが出来るNITP(新型出生前診断)を受け、郵送されてきた診断書の「陽性」の文字に目が留まる。ペルソナ総合医療センターの産婦人科を受診し、医師の鴻鳥サクラ(綾野剛)にお腹の中の赤ちゃんが高い確率で21トリソミー(ダウン症候群)であること、確定するには羊水検査が必要であることを告げられる。高山夫妻は思いもよらぬ診断結果に動揺を隠せない。

次にペルソナの遺伝カウンセリング室に訪れたのは辻明代(りょう)と信英(近藤公園)。彼らも出生前診断でダウン症候群の診断結果が出て、中絶を選択した。「うちはちっちゃい弁当屋やってて、パートさんひとり雇うのにもいっぱいいっぱいなの。この子の世話にかかりきりになったら、生活が成り立たなくなる」と明代。出生前診断は胎児の染色体異常などがないかを調べる検査だが、結果として中絶を希望する妊婦も多く、理由も様々。手軽に検査を受けられるようになってきたことから医師たちの間でも色んな意見がある。鴻鳥先生はひとり、険しい表情を浮かべていた。

そんなある日、四宮先生(星野源)のもとに能登から妹の夏実(相楽樹)が訪ねてくる。癌で闘病中の父親・晃志郎の病状や今後のことを話し、へその緒が入った小さな箱を兄に手渡す。へその緒には昔からお守りのような意味があるのだと助産師の小松先生(吉田羊)に教わった四宮先生。晃志郎は最近体調が良いと言っていたが、夏実が帰郷した後、容態が急変してそのまま亡くなったという報せが勤務中に入る。しかしそんな時でも、四宮先生はペルソナに搬送されてきた妊婦の緊急カイザーへと向かい、手術を成功させる。

妊娠中期中絶を選択した明代。鴻鳥先生が「人工死産は体への負担だけでなく、お母さんの心にも負担がかかります」と気遣うも「私は大丈夫です」と気丈にふるまう。辻夫妻にはひとりの娘がいて、愛情深く接している。自分たちがいなくなった後に障害を持つ第二子を娘に任せるわけにはいかない、というのも中絶を決めた理由だった。手術の日、明代が「先生、ひとつお願い。最後、この子、抱いてもいいですか」と言うと鴻鳥先生は「わかりました」と、その気持ちに寄り添った。手術後に「辻さん、お腹、痛いとかない?」と小松先生が明代に声をかけると「抱っこ、させてもらったんです。すごく小さくて……でも……温かかった」と明代が涙を流した。命の重みをしっかりと伝えたシーンだった。

休憩室、苦しそうな表情の鴻鳥先生に四宮先生が飲み物を渡す。「産科医として、避けられないことだからね。ご家族が幸せになるための選択だと、そう自分に言い聞かせてる。でもさ、僕は赤ちゃんが好きだから」と泣きそうな表情。それに対し四宮先生は「ああ」と短く答えたが、気持ちを深く受け止めているようだった。

研修医の吾郎(宮沢氷魚)はこんな意見を鴻鳥先生にぶつけた。「このまま出生前診断がメジャーになっていって、それが当たり前になった時、医師としてどう向き合えばいいんでしょうか」と。
「吾郎先生、その質問の答えは、僕にはわからない。命は尊い。赤ちゃんが産まれてくることは奇跡だ。平等であるはずの命を選別してはいけない。その通りだ。けど、僕はずっと迷ってる。命の選別、その言葉にみんながとらわれてしまっていて。お母さん、お父さん、家族、その事情には目が向けられていない。それぞれの事情の上に命は産まれてくる。育てていくのは家族なんだ。出生前診断を受けた結果、中絶を選択する家族もある。心が重くなる。いつまでも慣れることはない。けど、悩みに悩んだ上にその選択をして、僕たちに助けを求めてる。その手を払いのけることはできない。中絶を決めたお母さんが、赤ちゃんを最後に抱きたいと願う。確かに矛盾してるかもしれない。だけど、その葛藤に僕たちが寄り添わないで誰が寄り添う?検査を受けた人、受けなかった人、赤ちゃんを産んだ人、産まなかった人、どの選択も間違ってない。いや、間違ってなかったと思えるように、産科医として、家族と一緒に命と向き合っていく。それが、僕に、僕達にできることなんだと、そう信じて僕はここにいる」――この長い台詞で、鴻鳥先生は産科医としての信念をしっかりと語った。

羊水検査でもお腹の中の子がダウン症であるという診断結果となった透子は、親族に「今回は諦めなさい」と言われても答えが出せずに迷っていた。3年前から不妊治療をしてやっと授かった我が子であるが、ダウン症の子を育てていけるのか、自信が持てない。夫婦で話し合い結局「今回は諦める」ことにしたが、処置室に入ろうと足を踏み出した透子はよろけて崩れ落ちてしまった。「この子、私の赤ちゃんなの。産みたい……!でも、怖い。自信がない。でも……」と葛藤する彼女に母親が「透子、あんた、産みたいんだね?」と問いかけると泣き出した。その背中を抱きしめてさすりながら「大丈夫、あんたがへばっても、母さんが一緒に育てる」と声をかけた。諦めなさいと言われても諦められない命。ひとつの命が救われた安堵感いっぱいの、このシーンも忘れられない。

ちなみに今回はダウン症の子供を持つ母親役として奥山佳恵もゲスト出演。「なんで、出生前診断でわかる、この子たちだけがはじかれるの?このまま、生まれる前に検査するのが当たり前になって、どんどんダウン症のある子、いなくなっちゃうんじゃないかなって。私、壮真のこと、本当にかわいいんだー!」と言う場面があったが、実際に自分の息子がダウン症であることを公表している彼女だからこその血の通った台詞だった。

最後は四宮先生が父の訃報を受けて鴻鳥先生に「ペルソナのこと、頼むぞ」と告げて病院を去るシーンだった。次回はいよいよ最終話。彼らはそれぞれにどんな未来を選択するのだろうか。(上野三樹)
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