鴻鳥先生(綾野剛)は流産の妊婦と、四宮先生(星野源)は父の患者と向き合う。『コウノドリ』第9話レポ

TBS系ドラマ『コウノドリ』第9話は、過去に2回の流産経験を持つ妊婦・篠原沙月(野波麻帆)が鴻鳥先生(綾野剛)のもとに検診に訪れた。3度目の妊娠も残念ながら「心拍が感じられない」と流産の手術を受けることに。3年前に初めての妊娠と流産を経験した時の母子手帳をいまだに捨てられない沙月は、度重なる流産に不育症を疑う。自宅で寝室にこもり、BABYの曲を聴いている妻を夫の修一(高橋光臣)は上手くなぐさめられずにいた。

一方、肺がんを患っている父親・晃志郎(塩見三省)が遂に入院したと聞いた四宮先生(星野源)は、再び石川県・能登へ行く準備を始める。ペルソナで担当している妊婦の様子などを鴻鳥先生に引き継ごうとして「僕は四宮ほど患者のカルテを丁寧に書いている産科医を他に知らない。だから心配するな」と言われ、どこかホッとしたように「じゃあ行ってくる」と返したシーンは序盤からグッとこみあげるものがあった。父親が入院している病院は自らが産科医として勤務している総合病院であり、病室に見舞うと横たわる晃志郎のもとに緊急カイザーを必要とする妊婦がいることが伝えられる。無理してオペしようとする父にかわって「わかった、俺がやる」と決意した息子。手術室の前で「この先生は誰なんですか?」と不安がる家族に「うちの息子を信じてやってください。東京で立派に産婦人科の医者をやってます」と寝間着姿の晃志郎が説明した。

「春樹、頼むな」と言われて手術室へと入る四宮先生。前立ちをしてくれるのは父親と同じくらいの年齢の、整形外科医だった。設備も整っていない、人材も不足している現場で、四宮先生は苛立つこともせず周りに冷静かつ的確に指示を出していく。何故か? それは父親が生涯をかけて守ってきた大事な場所だからだ。赤ちゃんが無事に産まれたことを報告すると、上の姉妹も自分が取り上げてきたんだから、やっぱり自分が取り上げたかったと少し悔しそうな晃志郎。町で唯一の産科医だからこそ、人との繋がりを大切にしながら仕事をしてきたのだろうし、それが喜びだったのだろう。四宮先生が実感のこもった口調で「よくここで医者を続けてきたな」と言うと「ここが好きだからな」と迷いなく答えた。今回のことには晃志郎も息子に感謝の気持ちでいっぱいだったのだろう。帰り際に「まだまだお前には負けんぞ」と手を伸ばした父親に、息子は「何言ってんだよ」と、その手をギュッと握り返した。

いつも穏やかな新生児科の今橋先生(大森南朋)の本音にも触れていた今回。小児循環器科での研修を希望している白川先生(坂口健太郎)が研修先の病院探しについて今橋先生に相談した際に、白川先生のことが「羨ましい」と打ち明けた。「僕はずっとここから出たことがないから、ここを出て勉強したいと思っても白川先生みたいに行動に移せなかった。すごい勇気だと思う」。その上で「またここに戻ってきて欲しい。その時は今みたいに先輩と後輩の関係じゃなく、同じ立場で小さな命を一緒に救いたい」と。この言葉はきっとこれから白川先生の支えになるだろう。四宮先生も父親と息子という関係じゃなく、今回は産科医という同じ立場で小さな命を救った。先を歩く大きな存在である誰かに認めてもらうことは、何よりも大きな力になる。

その頃、沙月の夫・修一は「どうすれば妻を笑顔にしてあげられますか。苦しんでる妻に何もしてあげられないんです。それが辛いです」と鴻鳥先生に相談していた。辛かったことを早く忘れさせてあげたいという夫にこう答えた。「忘れなくていいんです。僕は出産は奇跡だと思っています。医学はこんなに進歩したのに、今、篠原さんご夫婦が悩んでいる問題はいまだに原因がはっきりしていません。でも修一さんが、奥さんに寄り添って笑顔にしてあげたい、近くで何とかしてあげたいって必死にがんばってる姿は、奥さんにとって一番の治療になると思います」と。その言葉を得て修一が向かった先は楽器店だった。

キーボードを買ってきて自宅でBABYの曲を練習している修一。そのつたないメロディに込められた優しさは沙月にも伝わったことだろう。不育症の検査結果が出たが特に異常はなく「次の赤ちゃんを妊娠して出産にいどめます」と診断された。しかし、その想いを汲み取った鴻鳥先生の「怖いですよね、不安ですよね」という言葉に沙月は「子供を産みたい、でも妊娠することへの怖さもある」という正直な想いを吐き出した。子供が大好きな夫に自分の子供を抱かせてあげられないことへの辛さ、流産を繰り返して心に残った傷。それを癒やすには時間も必要だ。それでも、あえて鴻鳥先生はこう言ったのだ、「次はきっと大丈夫。だって篠原さんはこんなに近くに世界一の味方がいるじゃないですか」と。夫婦で悲しみを乗り越えようとするその背中を優しく後押しした。

下屋先生(松岡茉優)のいる救命科には脳からの出血がある36週の妊婦が運ばれてきた。産科医時代の経験をいかして「分娩を最優先すべきだ」と判断し、「私はまだ救命医として使い物にならないのはよくわかってます、でも赤ちゃんのことは私に任せてください」とスピーディな判断力と処置で赤ちゃんと母体を救った。救命科部長からの報告を受けて、鴻鳥先生が「下屋ががんばったみたいだよ。僕たちも負けてられないね」と四宮先生に話すと「親父がさ、まだお前には負けんぞって帰り際そう言ってた」と答える。「何かいいねそれ。羨ましいな」と言った。

生きている限り明日はやってくる
悲しみが繰り返されてしまう時がある
悔しさが繰り返されてしまう時もある
それでも気付いて欲しい
今ある道を進むことで光が見える

鴻鳥先生のナレーションではそんな言葉が印象的だった今回は、悲しみに屈せず前に進んだことで光が見えた瞬間まで描ききった。ある日の診察で「篠原さん、赤ちゃんの心拍確認できました。赤ちゃん、お母さんに似てとっても頑張り屋さんですよ」と鴻鳥先生が声をかけると、エコーのモニターに映る小さな命を見ながら、嬉しさで顔をくしゃくしゃにして沙月は涙を流した。『コウノドリ』に妊婦としてゲスト出演する女優たちの名演技は度々話題になってきたが、今回、沙月を演じた野波麻帆もまた素晴らしかった。

最後は下屋先生が「私は絶対、ふたりを超えますから」と言いながら今の悔しさやもどかしさを体全体で表現するような場面も。「下屋のくせに100年早い」と四宮先生が言うと「でも楽しみだね」と鴻鳥先生。妊婦たちのリアリティに迫り、そして妊婦たちに寄り添い葛藤しながら成長していく医師たちの姿を描いてきた『コウノドリ』。最終話まで濃厚な内容で駆け抜けてくれそうだ。(上野三樹)
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