今週の一枚 yonige『girls like girls』

今週の一枚 yonige『girls like girls』
初となるフルアルバム『girls like girls』で、いよいよメジャーデビュー(ワーナー/unBORDEより)を果たす、大阪府寝屋川市出身の牛丸ありさ(Vo・G)とごっきん(B)の女子ロックバンド=yonige。現在は、サポートドラマーを含めた3ピース編成でライブを行っている。

《ねぇ 知ってた?正直者はただのバカなのよ/絶望はね 大人になるための約束事で》(“バイ・マイ・サイ”)

今回のアルバムに収録されているこの楽曲は、もともと2015年のミニアルバム『Coming Spring』の収録曲だ(ギターなどリアレンジが加えられている)。小気味良く響くフックを備えたロックチューンなのだが、抜粋した歌詞を読んでもらえれば一目瞭然、ヘヴィなテーマが歌い込まれている。yonigeはこんなふうに、青春の真っ只中で取り返しのつかない喪失感を抱き、もはや夢見る少女ではいられない現実と取っ組み合う、そんな歌の数々を生み出してきたバンドである。

メジャーデビューを果たすまでの間にyonigeはメキメキと成長を遂げ、すこぶる筋肉質で骨太なライブを繰り広げるようになった。諦観や疲弊感に染まる歌とは裏腹に思えるぐらいの、力強いエネルギーに満ちたロックを鳴らしている。ごっきんの豪快なベースイントロで始まり、牛丸が関西弁でまくしたてるように歌うアグレッシブな“スラッカー”は、彼女たちのライブ感を伝える1曲と言えるだろう。音も、言葉も、偶然に頼らない地道な努力を通して紡ぎ上げられているのだ。

音程ひとつで、音色ひとつで見える景色が変わってしまうところが音楽の凄いところであり、例えば僕などはよく音楽の「魔法」とか「奇跡」といった言葉で軽々しく書いてしまったりもするのだけれど、恐らくyonigeは音楽の「魔法」や「奇跡」を信じていない。生きる活力を奪われてしまうような悲哀や理不尽を味わいながら、それでも訪れる毎日を潜り抜けるために、必死で音を鍛え、言葉を選ぶのである。

甘い陶酔感に誘われる“沙希”、ディストーションの中から生活のポエトリーリーディングが伝う“とけた、夏”、一歩一歩の推進力を見失わない“また明日”という、アルバム後半の流れが素晴らしい。決して勢い任せではない、確かな音と言葉を育ててきたyonigeだからこそ、描くことができるロックである。彼女たちの歌に安っぽい気休めは一欠片もないけれど、見える景色を確実に変えるだろう。


なお、俳優・山田孝之がオープニング曲の“ワンルーム”にインスパイアされ構想したというショートフィルム『点』が、9月23日(土・祝)から1週間、新宿で公開される。監督・脚本は石川慶。“ワンルーム”は《あげっぱなしの便器がやけにリアルで恥ずかしくなった/君を泊まらせた後の誰もいないワンルーム》という歌い出しからして、牛丸の映画的なストーリーテリングが光るナンバーだ。今後もこんなふうに、yonigeのロックがカルチャー全体に刺激をもたらすことを期待したい。(小池宏和)

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