今週の一枚 米津玄師『Flamingo / TEENAGE RIOT』
2018.10.30 13:15
低音を抜いた脱力系のファンクサウンド。巻き舌や笑い声、咳払いなどのサンプリング。七五調に統一された歌詞。こぶしを用いた演歌・民謡っぽい歌い方。振り返れば、前シングル表題曲“Lemon”は、ヒップホップ調のトラックと歌謡曲調のメロを掛け合わせた楽曲だった。今回はそこでトライしていた和洋折衷的な方向性を、全く別の角度から攻めたような印象だ。
ポップソングの中にさらりと異物を混入させる米津のセンスは、近年、どんどん先鋭的になっていっている。誰も見聴きしたこともないような異形のものに、どんどん近づいていっている。その現時点での究極形がこの“Flamingo”だ。そこにはもちろん音楽家としての探究心が存在しているわけだが、ここで改めて米津のバイオグラフィを振り返ってみると、特に今回のシングルは、「歪」である必要性があったのではないだろうか――と考えられる。
『diorama』(2012年)をリリースした時に感じた、J-POPをやったぞという本人の手応えと、それを風変わりなものだと解釈した世間との乖離。2016~17年におけるコラボ/タイアップ曲制作時に見出した「他者と自分との間にリンクする部分を見つける」というやり方。そして2018年、『Lemon』リリース後に辿り着いた「個人的であることと普遍的であることは相反しない」という結論――。そうなると次の一手はただひとつ。「自分」側に寄せたような、もしかしたら聴き手を置き去りにしてしまいかねないような音楽を、普遍的なものとして響かせてしまうことである。
さらに、米津には思春期の頃から「もしかしたら自分は爪弾き者なのかもしれない」という自意識があったという。ということは、奇妙な姿をした“Flamingo”という楽曲はある種、原点回帰にあたるのかもしれない。
それを踏まえると、初期衝動を感じさせるような“TEENAGE RIOT”が両A面として並んでいるのも合点が行く。この曲のサビのメロディは米津が中学生の時に作ったものなのだそう。“Flamingo”の温度感を継承したミニマルなバンドサウンドが、サビの直前、米津が声を張ったのと同じタイミングで一気に生っぽくなる。このような構成を採用したのは、そんな楽曲誕生の背景が関係しているのかもしれない。また、歌詞も非常に核心的。サビが訪れるたびに登場する《バースデーソング》という単語には、2018年までを「人生の第1章・完」というふうに語る米津の意識が反映されている。2番サビの《地獄の奥底にタッチして走り出せ 今すぐに》、《誰より独りでいるなら 誰より誰かに届く歌を》というフレーズには、いちクリエイターとして、彼が普遍的な表現を目指す理由そのものが託されている。
どちらの曲も、米津玄師のキャリアが2周目に突入したことを表しているように思える。シングル『Flamingo / TEENAGE RIOT』はそういう意味できわめて重要な作品なのだ。(蜂須賀ちなみ)