この映像作品は、単なるライブ映像作品とは質感がまるで異なる。ライブの臨場感を伝えるためのものというより、まるで1本のドキュメンタリーを観ているかのように、まずはそこにいる観客の目線で、そして次第にステージに立つメンバーの目線で、そこからさらにBUMP OF CHICKENというバンドを広く捉える俯瞰的な目線で、「今」の彼らがどういう場所に立っているのかを探求する、その旅に出たかのような、そんな作品になった。
ツアーのテーマ曲であったオープニングの“pathfinder”。その未知なるものへと惹かれ、導かれていくような、繊細で抽象的な美しさを見せた映像とサウンドが、こうしてじっくりとまた味わえるのも嬉しい。ライブの始まりの予感、そしてこれからのBUMPが進む道への予感──そうしたものがこのオープニングに込められていたような記憶があって、それをこの映像で余すところなく確認できた。やはりこのオープニングはとんでもなく素晴らしい。
今回のツアーの演出も東市篤憲(A4A)が手がけている。そしてこの映像作品も東市の制作である。だからこそ、ライブ中の映像演出で意図するところを今回の作品でより明確に伝える、その編集手法が的確なのだ。というより、そこにしっかり意思と感情が入っている感じ。メンバーの一瞬の表情の捉え方、客席で突き上げられるオーディエンスの腕1本1本にも様々な感情を見てとることができる。その映し出し方──。そうか、だからこそ、会場を訪れたファンには1人ずつ、LEDを内蔵したリストバンド型のPIXMOBが配られたのだ。楽曲によって様々な色に光り、腕が振られるたびに数多の星がきらめくように見えたあの光景。ステージ上のメンバーにも、あの光の海はとても美しく見えただろう。
ラストの“流星群”での映像も、これほど美しく圧倒的な輝きを放つものだったのかと、改めて息を飲む。BUMP OF CHICKENの奥行きの深いバンドサウンドと相まって、また、会場みんなのPIXMOBの光も加わって、素晴らしく壮大な音像を作り上げていく。これこそがBUMPとリスナー、ファンとでたどりついた「今」であり、演奏と歌には静かなるエモーションが溢れ、カメラがとらえたメンバーそれぞれの表情からは、いまのBUMPの迷いのなさがにじんでいる。
バンド結成から22年を迎えたBUMP OF CHICKENは、なぜ「アルバムを引っさげて」のタイミングでもなく、周年のアニバーサリー的な意味合いもないこのタイミングで、これほど大規模な全国ツアーを行ったのか。この映像を観ていると、改めてその答えが見えてくるような気がする。もちろん、BUMPがこの規模で自分たちの作り上げてきた楽曲を、このスケール感でリスナーにはっきりと届けることができている、ということはまぎれもないひとつの到達点ではある。かと言って、彼らは「この」到達点を目指してきたわけではない。今なお道の途中──その通過点こそを、バンドとリスナーとで共有することに意味があり、その風景こそ記録すべきだという、そういう意思のようなものが、この映像にはあった。
「周年ともゾロ目とも思ってないんだけど」と、藤原基央(Vo・G)は言った。でも、「会場のみんなの顔を見たら、22年やってきてよかったと思えた」と。そうなのだ。キリのいいアニバーサリーイヤーはもちろん盛大に祝うとして、でも、そうではない何の節目でもないタイミングでだって、自分たちの歩んできた道を確認しておきたくなる時も訪れるだろうし、未来への良い予感が膨らんだ時には、それがいつだろうとリスナーといち早く共有したいと思うはずだ。今回のツアーはまさにバンドが能動的に過去から現在を俯瞰して、BUMPの未来へと進んでいこうとする意思から始まったものだと思う。だからこそ、最後に藤原はこのツアー中に作ったという、できたばかりの“Spica”を弾き語りでいち早く披露してくれた。
今回のツアーに足を運んだ人も、そうでない人も、この「ドキュメンタリー」には、間違いなく心を動かされるだろう。BUMP OF CHICKENはまだまだ音楽の探求者であり続ける──そう確信できる素晴らしい映像作品である。(杉浦美恵)