今週の一枚 My Hair is Bad『hadaka e.p.』

今週の一枚 My Hair is Bad『hadaka e.p.』 - 『hadaka e.p.』『hadaka e.p.』
今回のMy Hair is Badの新作を聴いて思ったことは「越えたんだな」ということだった。

人は、自分のしたことでも誰かから受け取ったことでも、その瞬間には「一生忘れない」と誓ったことですらも忘れてしまう生き物だ。「忘れたくないこと」を「忘れないように」と願いながら温め、それが時間の経過を経てじんわりろ過され「忘れられないこと」になり、気付かないうちにゆっくり蒸発して「忘れてしまったこと」になる。これまでのMy Hair is Badの楽曲を振り返っても、その過程のひとつひとつをとても丁寧に描写していたように感じるし、聴く人は椎木知仁(G・Vo)が紡ぐその言葉、My Hair is Badが鳴らす音に自身の「忘れたくないこと」を委ね透かしては自分のように大切にしているのだと思う。

そして、そんな彼らが今作で放ったのは、蒸発した過去のあれこれで出来上がった濃霧を抜けて、新境地を見つけ出そうとする絶対的な意志だった。“次回予告”では《失くなったことばかり ずっと思い馳せないでいて/続きは これから》、“惜春”では《だから忘れる為に先を急ぐんだ》、“裸”では《今、/僕がするべきことが/忘れてゆくことならば》と、清々しいほどに「その先」を見据えている。さらに、今作は歌詞だけでなく(むしろそれ以上に)メロディに対して、かなりストイックに向き合っているバンドの姿勢が顕著に表れている。これまで言葉で動かしていた楽曲の表情がメロディの豊かさやリズムの動きによってさらに伝わりやすくなったように思うし、「詞を乗せ、歌う為のメロディ」ではなく「詞を乗せ、聴かせる為のメロディ」という印象が強くなった。

今のMy Hair is Badは、例えば「マイヘアらしい」とか「恋愛といえばマイヘア」といった評価が聞こえなくなるくらいに遠くにある、もっと高い場所の景色を見たくなったのだと思う。ひと山越える為に身軽にしたかった、じゃあどうするか? それなら血肉となったこれまでの経験は身の一部として、両手で抱えている過去のものを一旦置いてみよう――動機はそれくらい単純なのだと思うし、そんな彼らを見て私はたまらなくワクワクした。「鉄は熱いうちに打て」ではないが、まさに「好奇心は湧くうちに動け」。両手を広げたマイヘアには今作を新たな始点にして、このまま、思うまま、ありのまま進んでいってほしいと心から思える作品だ。(峯岸利恵)
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