今週の一枚 Mr.Children『ヒカリノアトリエ』

今週の一枚 Mr.Children『ヒカリノアトリエ』

すでにNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』の主題歌として日本全国の朝を彩っている“ヒカリノアトリエ”だが、《さぁ/空に架かる虹を今日も信じ/歩き続けよう》の後に続く《優しすぎる嘘で涙を拭いたら/虹はもうそこにある》のフレーズは何度聴いても胸が熱くなる。
《「雨上がりの空に七色の虹が架かる」/って そんなに単純じゃない/この夢想家でも/それくらい理解ってる》にもかかわらず、珠玉のポップミュージックを通して聴く者を一歩でも前へ先へと導こうとする表現者の矜持と使命感を、この一節がひときわ優しく、力強く伝えてくるからだ。

巨大な規模のアリーナ/スタジアムツアーを回り続ける「日本屈指のモンスターバンド」としてのMr.Children。
「音の重なり合い・響き合い」にこだわって小規模のホールを回る「生身の音楽探求者集団」としてのMr.Children。
上記の説明の字面だけを見ると、前者はラジカルでエッジィ、後者はどこかレイドバックしたような印象を持つかもしれない。が、それは決して正しくなく、いずれもMr.Childrenの揺るぎないポップの本質そのものである――というのが、2016年の活動の軸となったホールツアー「虹」の2公演(5月茨城、10月武道館)を観て改めて抱いた実感だ。

桜井和寿/田原健一/中川敬輔/鈴木英哉のメンバー4人にSUNNY(Keyboards&Back Vocal)、山本拓夫(Saxophone)、icchie(Trumpet)、小春(Accordion/チャラン・ポ・ランタン)を加えた8人編成で、シンセやトラックなどの同期音を一切排したアンサンブルを繰り広げてみせたホールツアー「虹」。
同じ曲でも公演ごとに異なる表情を見せながら、これまでに観たMr.Childrenのどのツアーとも異なる豊潤で無防備な包容力に満ちたサウンド越しに、桜井の楽曲とメロディが備えているタフなポップの肉体性をリアルに伝えてくる――そんな至上のライブ体験だった。
スタジアム規模での壮大な一体感という「舞台装置」も含めて一大エンタテインメントを展開してきたMr.Childrenだが、そんな舞台装置も武装も解除した空間の中で鳴り響くその歌と音楽には、どこまでもプリミティブな躍動感と生命力がみなぎっていた。

アリーナ〜スタジアムでトータル100万人を動員した、アルバム『REFLECTION』を巡る2015年のコンセプチュアルなツアー活動から一転、音と音を紡ぎ合わせて生み出されるマジックのひとつひとつを、Mr.Childrenは改めて自分たちの生演奏だけで編み上げていくことを選んだ。
そこから生まれた確かな手応えが、新曲“ヒカリノアトリエ”を生み、そのサウンドスケープを描き出す8人編成に「ヒカリノアトリエ」というバンド名を与え、その物語が3月から始まる新たなホールツアーへと繋がっていく――。
そんな奇跡のサイクルの片鱗を、表題曲“ヒカリノアトリエ”はもちろんのこと、この「ヒカリノアトリエ」編成でスタジオライブレコーディングされた“つよがり”“くるみ”“CANDY”、さらにホールツアー「虹」からのライブテイク“ランニングハイ”“PADDLE”といった今作の収録曲群からも十分に感じ取ることができるはずだ。

「雨の後に虹が出ることもあります。出ないかもしれない。でも空に架かった虹を見逃さないために、出来るなら下を向かず、前を向いて、空を見上げていてください」――昨年4月の熊本地震の影響で「虹」ツアーの宮崎・佐賀公演に来られなかった人に向けた上記のコメントにこめた想いが、そのまま“ヒカリノアトリエ”という曲になった、と桜井は武道館公演のMCで明かしていた。
全編通して朗らかな多幸感に満ちた“ヒカリノアトリエ”の音像だが、その根底に流れているのは「リラックス」とか「自然体」といった呑気な空気感ではまるでない。僕らはいかにして悔いなく「今」を生きていくべきか、悲しみのその先へ進んでいくべきか、という真摯な問いかけと切実な祈りそのものだ。

3月〜4月の「Mr.Children Hall Tour 2017 ヒカリノアトリエ」に続き、6月からは新たに「Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017」の開催が発表された。
現時点ではドーム&スタジアムツアーに関する情報はスケジュールと会場のみで、具体的な内容については一切アナウンスされていないが、これまでに観たどのスタジアム公演とも異なるMr.Childrenの世界がそこには広がっているように思えて、今から心が躍って仕方がない。(高橋智樹)
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