今週の一枚 星野源『ドラえもん』

今週の一枚 星野源『ドラえもん』 - 『ドラえもん』『ドラえもん』
徹頭徹尾の星野源でありながら、《とってもだいすきドラえもん》が炸裂しまくる4曲。巷ではすでに話題沸騰の、通算11作目となるシングルである。『映画ドラえもん のび太の宝島』とのタイアップを契機に、原作への思い入れをとめどなく溢れ出させる作風になった。お茶の間レベルの国民的漫画/アニメ作品と、お茶の間レベルの国民的アーティストが愛をもってつながる、どう捉えてもポップにしか成り得ない作品だ。しかし、そこはさすがに星野源。実際に音源に触れたときの驚きと喜びは、前情報に触れたときのそれを遥かに凌いでいる。とにかく聴いて欲しい。このテキストを読んで頂くのは、後回しで構わない。


まず、映画主題歌となった表題曲“ドラえもん”については、先日公開されたコラム『星野源の“ドラえもん”MVからは「ドラえもんに育まれた星野源」が伝わってくる』に書いた。かつてのシングル曲“Crazy Crazy”がハナ肇とクレイジーキャッツへのトリビュートだったのと同様に、星野源の“ドラえもん”は原作と藤子・F・不二雄への極上のトリビュートである。2コーラス目に綴られた《拗ねた君も 静かなあの子も/彼の歌も 誰かを救うだろう》という歌詞は、あの仲間たちの活躍する『映画ドラえもん』にぴったりだ。《彼》というのはもちろん、日本が誇る最強不滅のあのシンガー(音響兵器ともいう)のことだろう。

2曲目の“ここにいないあなたへ”は、同映画作品の挿入歌。静謐でフォーキーな曲調と、風景に溶け込む独白のような詩情は、往年の星野源のプライベートな作風を思い出させる。一方で、豊かなブラスアレンジや、間奏に差し込まれる不思議で寂しげなオンド・マルトノ(本澤尚之の演奏)の音色は、星野サウンドの新境地を感じさせている。あたかも『のび太の結婚前夜』や『おばあちゃんの思い出』など過去と未来が交錯する名エピソードのように、星野源は自身のソロキャリアをタイムトラベルして感動的な名曲を掴み取っているのだ。

そして3曲目の“The Shower”。MPCプレイヤーのSTUTSが繰り出すクールな生演奏ビートがファルセットの歌声を支え、櫻田泰啓のハモンドが跳ねてエレクトリックピアノがなびく。そんなファンキーソウルだ。《ママ》、《シャワー》というニ語以外すべてひらがなで書かれた歌詞は、子供っぽいようで少し大人びた女子の思考を巧みに描いている。野暮なことは言いたくないが、日本一シャワーシーンの似合う我らがマドンナの歌である。ここまで妄想をスパークさせてストーリーを紡ぐのかという、星野源の変態性こそがキモになっている一曲と言えるだろう。最高だ。

駄目押しは、ハウスミュージックではなく「宅録」という意味の恒例シリーズによるカバー“ドラえもんのうた(House ver.)”。スロウなテンポでじっくりと歌い上げている。星野源がひとりきりで各パートをダビングした作風かと思いきや、とっておきのスペシャルゲストも登場。アウトロのフレーズを口ずさむところまで、たっぷりと思い入れの余韻を残してゆくカバー音源になった。

どんなに素晴らしい作品やカルチャーが生まれて、どんなに大きなメディアがそれを紹介しても、受け止めた者が思い思いに解釈し大切に血肉化しなければ、作品やカルチャーが後世に語り継がれることはない。だから星野源は『ドラえもん』ファンのひとりとして、あの手この手で力を尽くし、あなたの中のドラえもんを呼び覚まそうとする。次世代に『ドラえもん』のバトンを繋ぐため、遊び心をたっぷりと注ぎ込みながらも真剣そのものの姿勢で制作された、素晴らしいシングルである。(小池宏和)

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