今週の一枚 back number『瞬き』
2017.12.19 12:30
《幸せとは 星が降る夜と眩しい朝が/繰り返すようなものじゃなく/大切な人に降りかかった雨に傘を差せる事だ》
サビから始まるこの歌い出しの歌詞が凄い。強烈な断定のフックである。このフレーズが計4回、すべてのコーラス部分に用いられているのだけれど、とにかく言いたいことはこれなんだという思いがビンビン伝わってくる。『ハッピーエンド』以来13ヶ月ぶりとなるシングルであり、表題曲“瞬き”は目下全国劇場で公開中の映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』主題歌となった。
ただロマンチックなだけじゃない、戸惑いを告白しながらも強靭な信念を宿して何度もリフレインされるあのサビの歌詞は、映画のストーリーに寄り添ってこそ生まれたものだろう。世の中には平穏無事な毎日こそが幸せという人も当然いるだろうが、もともと毎日が平穏無事ではありえない人の場合はどうしたらいいか。その人なりに、幸せを定義しなければならない。人はそれぞれ立場が違うから、幸せの定義もそれぞれでいいはずだ。そういう主張が込められた歌なのである。
うっすらとエモーションを塗り重ねながら、8分の6拍子で展開するこのナンバーに、清らかで厳かなアレンジが施されているのはなぜだろう。歌詞の中ではまったくそれらしいことは触れられていないのに、まるで楽曲そのものがウエディングソングになることを望んでいるかのようだ。秀逸な「願いのアレンジ」と言ってもいいかもしれない。ちなみに、編曲はback numberと小林武史のタッグによる共同クレジットだ(他の収録曲はback numberによるもの)。
こちらもMVが公開された“ARTIST”(収録曲順は3トラック目)だが、ソリッドなダンスロックに乗せて、才能や努力、そして自我を切り売りするようなアーティストライフについて歌っている。痛ましさ、悩ましさがビビッドに立ち上るメロディと、清水依与吏(Vo・G)の節回しが素晴らしい。こんなヘビーなテーマさえもキャッチーなポップチューンに仕立て上げる、アーティストとしての性が透かし見えてしまって、一層切なさを駆り立ててくれる。
さて、もう1曲の新曲(2トラック目)“ゆめなのであれば”は大らかなロックグルーヴで歌の風景を押し広げるのだが、ざっくり言えば「きのう見た夢はこんな夢」という内容の歌詞で、《よく見たら 歴代の友達 総出演/職場の人達も なのに舞台は 教室なのね》とか《それに坂道を登ったのに 海ってもう物理的に ファンタジー》とか、夢の世界あるあるが連発で最高だ。夢の話が面白い人は羨ましい。夢というのは脳が記憶を整理しているときに見るという説もあるので、ある意味back numberど真ん中のラブソングと言えるだろう。それぞれに、色もムードもまったく違う佳曲が揃えられたシングルだ。(小池宏和)