初回限定盤には「オリオン盤」と「ライオン盤」の2種のジャケットアートワークが用意されており、いずれも米津玄師による作品。「オリオン盤」も極めて美しいイラストレーションだが、「ライオン盤」は『3月のライオン』の主人公・桐山零をモチーフに描かれ、上体の細やかな動きに込められた思いが伝わってくるようだ。アニメ作品への愛が溢れまくっている。そんな米津玄師のニューシングル表題曲は、この1月からアニメ『3月のライオン』エンディングテーマ曲に起用されている“orion”だ。
“orion”ミュージックビデオ
現在発売中の『ROCKIN’ON JAPAN』2017年3月号インタビュー記事の中で、米津玄師は“orion”がなぜラブソングという形になっているのか、その意図を語っている。この曲に用いられているオリオン座のモチーフは、実際に夜空に浮かぶ星座のことではなくて、とてもロマンチックな一瞬の情景を捉えた比喩表現だ。その美しくかけがえのない情景が失われることのないよう強く願い、楽曲はエモーショナルに展開してゆく。パーカッシブに響くストリングスのリフレインに後押しされて進むアレンジも新鮮で素晴らしい。
誰かと過ごすかけがえのない時間が失われないように、という強い願いがそのまま、生きる道標となって自分自身を照らすということ。孤独の中に生き、己のためだけに戦う桐山零なら、あの「ライオン盤」のアートワークのような表情で空を見上げることもなかっただろう。“orion”は『3月のライオン』テーマ曲でありながら、孤独な戦いの途上でかけがえのない時間を見つけ、より大きな舞台で戦い続ける、そんな今現在の米津玄師自身のテーマ曲でもあるように思う。
そんな愛の歌となった“orion”から一転、カップリング曲の“ララバイさよなら”は、孤独の中でやさぐれた思いがメロディと化して溢れ出すナンバー。久々にギターオリエンテッドなバンドサウンドとなっている。また、“翡翠の狼”も孤独な戦いと愛をテーマにした強い推進力を持つナンバーだが、童話のようなストーリーテリングに弾けるサウンドやコーラスが楽しい。どちらもライブ映えしそうな楽曲なので、ぜひ今後の披露に期待したいところだ。
それにしても、曲調はバラバラな3曲なのに、歌に込められたテーマや感情の形のおかげで、3曲とも桐山零というキャラクターのサウンドトラックのように聴こえてしまう一面がある。そういう楽しみ方もアリなのではないか。(小池宏和)