今週の一枚 ポルカドットスティングレイ『全知全能』

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ポルカドットスティングレイのメジャーデビューアルバム『全知全能』が、ついにリリースされる。リリース前からすでに、デビュー作としては異例とも言える複数のタイアップも発表されていて、1stアルバムでありながら、すでにメジャーのど真ん中を突き進んでいく覚悟と自信に満ち溢れた堂々たる1枚の完成である。この作品がどんな「策略」を持って作られたのかは、今発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』12月号のインタビューで雫(Vo・G)にじっくり語ってもらっているので、ぜひそちらを読んでいただくとして──。その中で、特に記憶に残っている言葉が、「(このアルバムを通して)『“なんでもやります”っていうバンドなんですよ、ポルカドットスティングレイは』っていう自己紹介がしたかった」という雫の言葉だ。

単純に「振れ幅が大きい」とか「ジャンルにとらわれない」とか「多様性のあるバンド」というような表現はよく使うし、実際にその言葉通りの魅力的なバンドもたくさんある。しかし、ポルカの場合の「なんでもやります」という言葉には、そこに一切の誇張はなく、心底「なんでも」、できる限りのことはしていこうという意志から出たものであるということが、この『全知全能』を聴けばよくわかる。ブレイクのきっかけとなった、シャープなギターロック“テレキャスター・ストライプ”や“エレクトリック・パブリック”も新録で収録されているが、“極楽灯”のようなバラード曲、スウィンギンな「ネタ曲」“顔も覚えてない”、はたまた爽やかでキャッチーなJ-POPさながらの“ショートショート”などなど、多様性という意味で、ここまでレンジの広い作品に仕上がったのはとても意外だったし、このいい意味での裏切りこそが、これまでもポルカの魅力だったことを思えば、その個性が存分に凝縮されたアルバムだとも言える。たぶん、これまでポルカドットスティングレイというバンドについて、エキセントリックなギターロックバンドであるという一元的な認識しか持っていなかった人にとっては、今作は少なからず予想を覆されるような作品になったのではないかと思う。

しかし、それこそが雫の、そしてポルカの「策略」だ。つまりは、大風呂敷を広げられるだけ広げて、ロックやギターサウンドに興味を持たない人をも巻き込んで、気がつけばそのリスナー自身がポルカを通じて様々なジャンルに触れ、音楽の楽しみ方を見つけていく。その時、大風呂敷は見事に回収される。それこそがポルカの「正義」なのだ。だからこそ、雫は今作に七色(というより十四色)にくるくると色を変える、実に鮮やかで多様な楽曲を、出し惜しみなく詰め込んだのだ。まるで「あなたはどのポルカが好きですか?」と問われているかのようでもある。その策略を隠すわけでなく、実にあからさまにやりきっていながら、すべての楽曲がしっかりポルカの音として強力な響きを持っているのが素晴らしいし、現代のポップミュージックとして的確にツボをついてくる佳曲揃いの作品になった。

とにかくアルバムのコンセプトやバンドとしてのアイデンティティなどは脇へ置いておいて、清々しいまでにリスナー・オリエンテッドで制作され、聴き手は自由に気分に合わせて選曲することが許されたような作品──言ってみれば究極にオンデマンドなアルバムだと思う。「自己紹介」として、ここまですべてをさらけだされたら、それぞれの曲で見せられる「一面」について、もっと知りたいと思うのは必然で、リリースされたばかりなのに、ポルカが描く次の景色を早く見てみたいと、早くも期待している自分がいる。しかし、『全知全能』を超えるようなアルバムタイトルってあるんだろうか(笑)。雫は「次の次くらいまでは考えてますよ」と笑っていたけれど。(杉浦美恵)
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