今週の一枚 UNISON SQUARE GARDEN『10% roll, 10% romance』

今週の一枚 UNISON SQUARE GARDEN『10% roll, 10% romance』
たとえば、ある楽曲がどうしようもなく好きで仕方がなくて、楽譜を漁ったり耳コピに精を出したりして、いざその楽曲のプレイや構造を完全に把握した瞬間、「謎が解けた!」というとてつもない充実感と同時に、「謎が解けてしまった」という一抹の物悲しさ、寂寞感を覚える――という経験を、多少なりとも楽器に熱中したことがある方なら持っていることと思う。

要は、ポップミュージックが多くの人にとって訴求力を持つためには、「誰にでも伝わるわかりやすさ」と同時に、その音楽がどれだけ不変の魅力を放ち続けられるか――言い換えれば、「誰にも解けない謎」としてのエッセンスをどれだけ濃密に備えているか、という点が重要になってくるということだ。

UNISON SQUARE GARDENの音楽は、それこそ“センチメンタルピリオド”あたりの楽曲からその両方のベクトルを備えた表現であり続けてきたが、昨年発売された最新6thアルバム『Dr.Izzy』で彼らは、ビートと言葉とエモーションの加速度をエクストリームなまでに解き放ちつつも、自らのすべてを眩しいポップ感の真っ只中で響かせてみせた。

そして、今年2月の配信シングル『Silent Libre Mirage』を経てリリースされるニューシングル『10% roll, 10% romance』。
TVアニメ『ボールルームへようこそ』のオープニングテーマとして書き下ろされた表題曲“10% roll, 10% romance”は、鈴木貴雄(Dr)の快速超絶ドラミングしかり、アグレッシブに躍動しまくる田淵智也(B)のベースラインしかり、速射砲の如く繰り出される斎藤宏介(Vo・G)のカラフルなボーカルしかり――。どこを切ってもユニゾンにしか演奏できないバンドアンサンブルと、Eメロまで目まぐるしく展開するユニゾンならではの楽曲&詞世界の高純度結晶体。
つまり、ユニゾンの3人が「誰にも解けない謎」そのものをダイナミックなポップの爆発力へと昇華した楽曲である、ということだ。

10%がロックンロールの「ロール」で、もう10%が「ロマンス」である、というのはおそらく、ユニゾン自身から見た「ユニゾンワールドの成分分析」の結果なのだろう。
では、あとの80%はいったい何でできているのか? それはわざわざ説明する必要はない、いやそもそも自分の中のエッセンスの総和なんて、足してきっちり100%にならなくたって、ハミ出してたっていいんじゃないか?と挑発してくるくらいのバイタリティが、4分43秒にわたって凝縮されている。極限進化作と呼ぶべき名曲だ。

カップリングの1曲目は“RUNNERS HIGH REPRISE”。the pillowsへのあふれんばかりのオマージュを、ピロウズ史を代表するロックアンセムのひとつ“RUNNERS HIGH”のコードリフや言葉に託しつつ、そこにユニゾン自身のロック観を重ね合わせて、鋭利な闘争心と開放的なエネルギーを響かせているのが痛快なナンバーだ。
この曲を披露していた今年1月のthe pillowsとの対バンでは、ピロウズのセットリストは田淵リクエスト大会状態だったし、アンコールではなんとピロウズのサポートベーシストとして田淵が登場!という、ピロウズ愛あふれまくりの一夜だったのを覚えている。
愛情も反骨も冒険心も批評性も含め、自らのリミッターを片っ端から取っ払ってぐいぐいと前へ先へと進むユニゾンの「今」を、“10% roll, 10% romance”とはまったく別の形で象徴している。

もう1曲のカップリングは“flat song”。ミディアムテンポの穏やかなビート感とサウンドの中で、風景が次々に色を変えて輝きを増していくような、あるいは日常の景色の中をまっすぐ歩いている先にポップの理想郷を描き出すような、そんなマジカルな楽曲だ。
全3曲のシングルではあるが、今作が物語る情報量と熱量は途方もなく大きい。そんな1枚であることは間違いない。(高橋智樹)
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