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    今週の一枚 Mr.Children『REFLECTION』

    今週の一枚 Mr.Children『REFLECTION』 - 『REFLECTION』{Naked}『REFLECTION』{Naked}

    Mr.Children
    『REFLECTION』
    2015年6月4日発売



    Mr.Childrenの最高傑作である。
    デビュー以来23年間、他の追随を許さないトップランナーであるミスチルの作品に対して軽々しく「最高傑作」と言い切ることがどれだけ重いことかはわかっている。
    その上で、あえてもう一度言うが、このアルバムはMr.Childrenの最高傑作である。
    なぜか? なぜなら、このアルバムにはミスチルのすべてがあるからだ。

    Mr.Childrenはこれまでもすべてを歌ってきた。
    明るい希望も厳しい現実も、美しい愛も醜い欲望も、喜びも苦しみも、日常も非日常も、理想も打算も、生も死も、すべてを歌ってきた。
    すべてを歌ってくれるバンドだから、彼らはつねにNo.1であり続けてきた。
    でも、そんなミスチルにもやはりバイオリズムがあって、その時期ごと、アルバムごとに色が違った。
    『深海』の色と『シフクノオト』の色はまったく違う。
    『HOME』の色と『SENSE』の色はまったく違う。
    そんなさまざまなアルバムの色のグラデーションの中で、
    ミスチルは僕たちリスナーが日々感じている思いや感情を残さずに拾い上げて歌にして励まし癒し導いてくれた。

    そして今作。
    このアルバム『REFLECTION』にはすべての色がある。
    それぞれが鮮烈な色を放つ曲が全23曲({Naked})。
    それをさらにリ・セレクトした曲が14曲({Drip})。
    パッケージとしては異なるが、どちらも「ミスチルのすべてが聞こえてくる」という意味で同質の手応えがある作品である。

    これまで(世間が持っているイメージ以上に)テーマやコンセプトに沿ったクセのあるアルバムを重ねてきたミスチルが、なぜ今「すべてを歌った」作品を2年7ヶ月間かけて作り、通常のCDではなくUSBという特殊な形態をとってまでリリースするのか。


    ロッキング・オンJAPAN最新号のインタヴューで桜井和寿はこう発言している。
    「たぶんMr.Childrenって、さあこの指とまれっていうサビでみんなで思いを共有するっていう。それをお茶の間レベルでちゃんとやる存在だったけど、もう音楽全体がそれを必要としてないかもしれないと思った時に、どこにボールを投げていいのかわからないっていうのはすごくありましたけどね。『今、必要とされてるポップソングってなんだろう?』っていう」

    それは今、いろんなアーティストが感じていることだ。

    〈みんなが音楽を通じて何かを共有する時代は終わったんじゃないか〉

    そこでほとんどのアーティストはどう考えるか。

    「まあいいや。自分は得意なフィールドで、自分が好きな、自分の役割にふさわしいことをやろう」

    それはそれで、今の時代にフィットした姿勢だと思う。
    無理をして頑張って潰れてしまった過去のアーティストたちの姿を見てきた新しい世代にとっては特に、こういう姿勢はほぼデフォルトになっている。

    でも桜井はさっきの発言のあと、こう続けている。


    「だから、持ってる全部の球種を使って投げる」



    これがアルバム『REFLECTION』のすごさの本質だ。
    ただ曲が多いとか、いろんなタイプの曲が揃っているとか、そういうことじゃない。
    今の時代の大衆の有り様と向き合い、その欲望と向き合い、その中で音楽に何ができるかというテーマに向き合い、それを乗り越えるために「持ってる全部の球種を使って投げる」という堂々の闘いに挑んだのだ。

    そういう意味で僕はこのアルバムを、すべてを歌ってきたミスチルが、そのミスチルのすべてを歌った最高傑作、と言い切りたい。(山崎洋一郎)
    山崎洋一郎の「総編集長日記」の最新記事
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