ロッキング・オン編集後記──紛れもない「ディラン」の「映画」

ロッキング・オン編集後記──紛れもない「ディラン」の「映画」
ボブ・ディランに関してこれ以上どれだけの音楽評論家がどれだけの解説を試みたところで、もはや全ては言い尽くされていて、言われるほうももう聞き飽きているわけで、そんな中で公開されたこの一作の映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』はこれまでにはなかった角度からの、そして計り知れないほど大きなディラン啓蒙力を発揮するはずだ。
となると、ではその内容の質と妥当性は? ということになるが、それも文句なしの素晴らしい伝記映画になっている。
最も見事だったのは、ディランの他人との距離のとり方、世界との距離のとり方、そして音楽に対してだけ盲目的に純粋に距離感ゼロで突っ込んでいくその極端なキャラクターをくっきりと描ききった点だ。
ディランを演じたティモシー・シャラメは、吹き替えなしであのディランの歌を歌っていることに称賛が集まっているが、それ以上に、あのディランの「距離感」を見事に表現していたことに僕は大きな感動を覚えた。
クライマックスのニューポート・ジャズ・フェスティバルが終わった翌日のシーンがいい。ウッドストックと同じ、ロックの虚しさがちゃんと暴かれている。(山崎洋一郎)

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