今週の一枚 RADWIMPS『サイハテアイニ/洗脳』

今週の一枚 RADWIMPS『サイハテアイニ/洗脳』

「Human Bloom Tour 2017」ファイナル、武道館2日目の当日にリリースされるダブルタイトルのニューシングル。“サイハテアイニ”はすでに先行配信リリースされ、4月末のさいたまスーパーアリーナではライブ初披露された。『君の名は。』『人間開花』の大ヒットを多くの人々と分かち合うツアーを締めくくり、そして「僕」と「君」というRADWIMPS不変のテーマを抱いたまま、新たなフェーズへと飛び込んで行く作品になっている。

まずは周知のとおり、アクエリアスのCM曲として書き下ろされた“サイハテアイニ”だが、爽やかな疾走感を振りまきながらも、繰り返し聴くほどに攻撃的でパンキッシュな印象の方が強くなってゆく。《僕にないものばかりで 出来上がった君だから/君の全部がほしくたって いけないことなんて ないでしょう?》、《世界で一番の調味料なにかご存知なの? ズバリそれは空腹です/要は 愛に一番の 調味料はもう分かるでしょう? その渇ききった心》。かけ離れた距離を一気に、ダイナミックに詰めてゆくための音と言葉がある。なんと言ってもタイトルが“サイハテアイニ”なのだから、爽やかさだけでは済まされない熱量にもぜひ注目すべきだ。

一方、重厚なグルーヴと混沌としたサウンドスケープに染め抜かれた“洗脳”は、それぞれの生活環境の中で培われた価値観の差異に思い悩み、悶え苦しむナンバー。トラックの中盤、唐突にファレル・ウィリアムス“ハッピー”を彷彿とさせるコーラスが差し込まれた後に、野田洋次郎は価値観の差異がもたらす悲劇についてまくしたてるように語る。誰もが身に覚えのある、日常の至る所に潜む疎外感と狂気を描き切った楽曲だ。

初回限定盤のジャケットアートワークに悪魔のビジュアルイメージが、通常盤には天使のイメージが用いられていることからも分かるように、このタイトルチューン2曲は個々の人間の「差異」というテーマの表と裏を描いている。僕と君の差異は容易く埋められるものではないし、そこには大きな喜びも大きな苦しみも横たわっているということ。楽曲群を広くカルチャー全般に浸透させて活躍し続ける今のRADWIMPSが、ロックでしかありえない方法で、そのシリアスなテーマに向き合っていることに感動を覚える。

極め付けに、つい先日のドラマ『フランケンシュタインの恋』第3話で公開された“棒人間 [Strings ver.]”だ。まさに「差異」というテーマが物語としてしたためられた名曲だが、物語が進むにつれエモーショナルに膨らむストリングスアレンジといい、再録のボーカルといい、オリジナルバージョンとの「差異」も全力で肯定されるべき、新たな命を吹き込まれた素晴らしいトラックとなっている。差異はあっても、命の尊さは同じなのだ。(小池宏和)
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