メジャーデビューアルバム『全知全能』から約1年3ヶ月。ポルカドットスティングレイの待望の2ndフルアルバム『有頂天』がついにリリースされた。このところ雫(Vo・G)が、「邦楽ロックバンドを卒業する」とか「ポルカはロックバンドではない」といった発言をしてきたが、その真意を明確にサウンドで表現した、現在のポルカからの「回答」とも受け取れるような作品である。現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2019年3月号には、今作についての雫のロングインタビューが掲載されているので、そちらもぜひ手にとってほしいのだが、そこで言及しきれなかった今作の本質について、書き記しておこうと思う。
まず、「ポルカはなんでもやる」という宣言通り、ボーナストラック含め全14曲、そのすべてが異ジャンルのもので構成されていると言ってもよいくらいのバラエティ感で、だからこそ「ロックバンドではない」という雫の発言にもつながるのだが、そこに散漫な印象は驚くほど感じられない。むしろ『全知全能』の「やれることをすべてぶちこんだ」ような、ある種のカオスなモードに比べ、トータルなコンセプトに貫かれた作品のように感じられるのが面白い。そして、そのコンセプトとして立ち上がってくるのが(こちらが勝手に感じているだけなのだが)、不思議なことに「ロック」なのである。「ロックバンド」からの脱却を企てる作品が、より「ロック」を感じさせるものになったのは、なぜなのか。
ラップに初チャレンジした“ばけものだらけの街”、これまでも要素として取り入れてきたジャズに正面から向き合いながらもポルカの遊び心が全開の“大脱走”、王道中の王道のサウンドを突きつけたジャパニーズ・ロック“ラブコール”、打ち込みエレクトロサウンドの“7”、そして、ブラスやピアノを壮大に取り入れてロックバンドの枠組みを大きくはみ出した表題曲“有頂天”と、今作にはポルカの「初」が満載である。確かにサウンドだけを聴けば、「ロック」とは言い切れないものが多いようにも思う。でも、雫が今回これほどまでに「なんでも」トライしてみたいと思ったのは、そのマインドの奥底に、「ロックバンドはこういう音を鳴らすべき」とか「ロックならバンドサウンドで勝負すべき」というような、思考停止の固定観念から一番遠くにいる存在でありたいというアンチテーゼがあるからなのだと思う。「ロックとはなんだ?」という不毛な問いから全力で逃げる、そのスタンスこそがロックであることを雫は本能的にか策略的にか(あるいはその両方で)自覚していて、サウンドや歌詞や、それにまつわる発言すべてでその姿勢を表現しているのである。
件の『ROCKIN'ON JAPAN』2019年3月号のインタビューの中では、
「今までは『邦ロックバンド』って言いながら、邦ロックというカテゴリーの中で最近流行っているもの──たとえば四つ打ち曲とか、最近またきているニコニコっぽい流行りの感じとか、そういう『流行り邦ロック』っていうのはやってきたけど、本当にストレートな邦ロックってやったことが実はなくて。でも今回“ラブコール”っていう曲をやっているんですけど、特に何も難しいことはしていない、まっすぐ地声で歌ってるロックチューンを入れたことによって、他はロックじゃない曲もいっぱい入ってるんですけど、ポルカドットスティングレイの一番ロックな部分を見ることができたと、皆さんには思っていただけるんじゃないかと思いますね」
という発言が印象的だった。
そう、つまりこれまでポルカは意識的に時代が求める音として、ギターロックのサウンドを作り上げてきた。つまり雫が言うところの「リスナーのニーズに応えた」ものとしての邦ロックだったのである。しかし今回この“ラブコール”では、初めて自分が音楽について思うことをストレートに歌詞にして、「流行り」とは違う部分で「ロック」を表現した。ここに明らかなのは、ロックに「NO」を突きつけたのではなく、ポルカはすでにひとつのジャンルとしての「ロック」を普遍的な表現として身につけているということだ。だからこそ、「それを声高に語ることも本来の意図とは違う」という意思表示を、この楽曲から感じるのだと思う。
曲調やスタイルがまったくバラバラな曲が集められたアルバムが、結果として色濃いコンセプトを体現していて、なんら説明的な文脈で語られているわけでもないのに一貫したメッセージを読み取ることができる作品になっているのは、ポルカドットスティングレイの、というより主導者である雫の良い意味での計算高さの為せるワザである。雫の言葉の表層だけを追っていると、バンドの本質を見誤ることになるし、そもそも結成からまだ4年のバンドが、これほど多様な音像をハイレベルで具現化できているということにも注目すべきと思う。というわけで、ぜひともこの最新作では「ロックではない」ポルカと、強烈に「ロック」なポルカ、その表裏一体のアンビバレンスを楽しんでほしい。(杉浦美恵)