あまりにも大きな存在となったHi-STANDARDという共同体への途方もない期待感を真っ向から引き受ける覚悟。と同時に、「これまで自分たちが成し遂げたこと」に寄りかかる気配など微塵もなく、「今」の歌と楽曲を掲げることでゼロ地点からパンクロックの頂へと駆け上がってみせるような、爽快なまでの挑戦精神――。
『MAKING THE ROAD』以来実に18年に及ぶアルバム空白期間を埋める「ハイスタ続章」としてではなく、難波章浩/横山健/恒岡章が「この3人にしかできないこと」を求めて魂を突き合わせた結果、紛れもなくHi-STANDARDでしかない音楽が生まれるに至った……というマジカルな高揚感を、今作はリアルに感じさせてくれる。
最初に『The Gift』(=贈り物)というアルバムタイトルを見た時は、多くの人が「Hi-STANDARDを愛し続けてくれたファンへの」、「新作を待ち焦がれてくれたパンクロックリスナーへの」贈り物、と思ったことだろう。僕もそうだった。が、タイトルチューン“The Gift”にこめられたメッセージはもっと大きな、かつ本質的なものだった。
《誰かになろうとなんてするな/誰でもない お前自身になるんだ/良く自分を見てみろよ/お前だけに贈られたギフトを見つけるはずさ》
(“The Gift”訳詞)
お前がその先へ踏み出すための「ギフト」は、お前自身の中にこそある――。リスナーにとって何よりの「ギフト」であるこのフレーズはまた、それぞれの道を歩んできた「今の自分」をあるがままに認め合うことで、まったく新しい次元のハイスタに辿り着いた3人の在り方をも象徴している。
それこそ“All Generations”しかり“We're All Grown Up”しかり“Punk Rock Is The Answer”しかり、その主語はもちろん「パンクアイコン=Hi-STANDARD」として描かれているものだ。が、彼らが今作で鳴らすパンクロックが強烈に僕らの心を揺さぶってやまないのは、その楽曲が伝えてくるメッセージが、ハイスタのファンやパンクシーンに留まらず、この時代に生きるすべての人に向けられていることが、アルバムの端々から伝わってくることだ。
《お前は パンクロックなど知らない/全然いいのさ 時間はたっぷりある/オレが教えてあげるから/だから/一晩中 かっこいい曲を一緒に聴こうよ》
(“Can I Be Kind To You”訳詞)
抑えきれない青春性の爆発や、社会や世相を仮想敵に設定したレベルミュージックとは明確に一線を画した、「今この瞬間を確かに生きるための鼓動」としての歌とバンドサウンド。誰ひとり排除することなく多幸感の果てへ導こうとするような包容力に満ちた磁場が、このアルバムには確かに備わっている。
2011年、東日本大震災の後に「AIR JAM」を復活させた時から、彼らの視線は「この時代にパンクロックをどう響かせるか」よりも「今を生きる人たちにパンクロックで何ができるか」に強く向けられていたように思う。その意志が彼ら自身を前進させ、Hi-STANDARDのサウンドにさらなる強靭さを与えるに至った。
疾走2ビートでも躍動しまくりの8ビートでも、今作の楽曲群が一貫して揺るぎないタフネスを感じさせるのは取りも直さず、迷いも過熱もなく一歩また一歩と新たな足跡を刻む今の彼ら3人の足取りの確かさゆえに他ならない。
アルバム終盤、ボーナストラックとして収録された“Friend Song”。《君に ボクの友達になって欲しいんだ/残りの人生の友達に》(訳詞)と歌われるこの曲のラストは、次のような言葉で締め括られている。《決して最後まで一人で乗り切れるほど/誰も強くないのさ》(同)……パンクムーブメント絶頂期に突然活動休止に至った過去もすべて噛み締めながら、3人がともに歩み、これから彼らの音楽に出会うであろう新たな「友達」に手を差し伸べようとする。そんな虚飾なき心の有り様がこの一節からも滲んできて、胸が熱くなる。
「闇にいるなら、光を探せ! 光がねえなら、自分が輝け!」――昨年12月の「AIR JAM 2016」で“STAY GOLD”を演奏する前に難波が呼びかけていた言葉が、“The Gift”を聴いた瞬間に脳裏に蘇ってきた。
この18年ぶりのアルバムに、Hi-STANDARDが『The Gift』という名前を与えたことの意味が、聴くたびごとに豊かに湧き上がってくる。そんな1枚だ。(高橋智樹)
今週の一枚 Hi-STANDARD『The Gift』
2017.10.04 12:30