今週の一枚 おいしくるメロンパン『hameln』

今週の一枚 おいしくるメロンパン『hameln』 - 『hameln』『hameln』
昨年秋の『indoor』のツアーで、今回の新作に収録されている新曲“nazca”を初めて聴いたとき、おいしくるメロンパンは自分たちの表現のリミッターを外そうとしている、と感じた。来たる新作はもの凄い作品になるだろう、と思った。その予想は、大筋において的中している。むしろ予想以上だ。これがおいしくるメロンパンの真の姿か、と思えるほど、獰猛にロックの牙を剥き出しにしている。ファンにとっても衝撃的な新作となるはずの、3作目となるミニアルバム『hameln』である。


過去2作のミニアルバム『thirsty』と『indoor』は、ライブのMCなどでも語られていたように、ナカシマ(Vo・G)、峯岸翔雪(B)、原駿太郎(Dr)という3人が、揃って世界と向き合うまでの期間に制作された楽曲が収録されている。言わば双子のような作品だ。他者に認めてもらえるのかどうかを恐れ、認めてもらうための方法を探る、出会いの過程の2作だった。その点で、新作『hameln』は根本的に違う。自分たちを認めてくれる人が少なからずいることを知り、その人たちを信頼し、貪欲により深い理解を目指す作品になった。素晴らしいのは、そこに「信頼」はあっても「甘え」が皆無だったことだ。

おいしくるメロンパンのロックには、うっすらと死とエロスの匂いがしていた。『ハムレット』を題材にしたミレーの名画『オフィーリア』を引き合いに出すまでもなく、命の際を鮮明に伝える表現は、生命の神秘を強く感じさせる点でエロティックである。肉体的な成熟ではなく、命の儚さや世界の残酷さを知る精神的な成熟こそが、エロティックなのだ。新作『hameln』では、収録された5曲のうちの序盤3曲“水葬”、“命日”、“dry flower”で、かつてないほど率直に死とエロスの匂いが立ち上ってくる。

月夜のプールサイドを描いたジャケットアートワークのイラストを目にしてからの、“水葬”の激しくエモーショナルな物語と音像にはドキリとさせられるし、かつて『thirsty』収録の“紫陽花”で《枯れて爛れてしまうのでしょう/せめて綺麗に散らしてよ》と歌っていたナカシマは、それに呼応するように今回の“dry flower”で《この想いはまるで/散らずに枯れた紫陽花のようだ/死期を待つ約束だけが僕を歩かせる》という秀逸な歌詞を綴り、思いをアップデートさせている。

世界は思いがけないような残酷さで命を奪い、残された命を歩かせ続ける。自分もそんな「世界」の側の人間なのかもしれない。そんな現実に気づき、戸惑い、思い悩みながら、『hameln』は最終ナンバー“nazca”へと辿り着く。おいしくるメロンパンの新しいロックは、お約束のようなルーティンを手放し、思いがけない現実そのものに立ち向かうかのように、奔放にエモーショナルに展開してゆく。彼らが、信頼すべきリスナーに甘えなかったというのはそういうことだ。

街中のネズミを駆除すべく溺死させ、そして子供たちを連れ去ったハーメルンの笛吹き男の伝説のように、おいしくるメロンパンは、あなたを思いがけない現実の中へと連れ去るだろう。(小池宏和)
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