今週の一枚 RADWIMPS『人間開花』

今週の一枚 RADWIMPS『人間開花』

なんて風通しの良いアルバムなのだろう。ひとつの成果を手にすることに、焦りも躊躇いも感じられない。たとえるならば、芽吹いた命が花を咲かせるまでに、差し込む光の遮蔽物を取っ払ったり、土が雨に流されないよう力を尽くしたとしても、命そのものに手を触れることは決してしない。音楽が生まれ、育つ、その生命力そのものを信頼している感じだ。ナチュラルで大らかだが、その背景には音楽が花開くのを待つ覚悟が横たわっている。

“光”ミュージックビデオ

先頃、美しいミュージックビデオが公開されたアルバム曲“光”は、他の誰にも侵すことの出来ない愛の瞬きに、迷うことなく身を投じる鮮烈なロックナンバーだった。『人間開花』は、英語詞の“Lights go out”、そしてこの“光”という2曲でドラマティックに幕を開ける。夜の闇の中へと手探りで踏み込み、辺りを照らすものはなく、光っているのはほかでもない、自分たちの愛である。愛の物語をロックバンドの活動に置き換えるなら、RADWIMPSはそんなふうに手探りで、ただし今の自分たちの中にあるものを信じ、「2枚目のデビューアルバム」と語られたという本作の制作に取り組んでいたのではないか。

強力な人力ダブステップと化した“AADAAKOODAA”があれば、ピアノ伴奏主体で歌心が際立つ“週刊少年ジャンプ”もある。もちろん、“前前前世[original ver.]”や“スパークル[original ver.]”も含めて、すべての楽曲がRADWIMPS作品として活き活きと躍動している。2016年のRADWIMPSの高い創造性は、期待はしていたけれども本当にその期待を軽く凌いでいる。制作期間中のグッドヴァイブスまでがひしひしと伝わるアルバムの中から、《ロックバンドなんてもんを やってきてよかった》(“トアルハルノヒ”)という歌が聴こえてくるのだから、言うことはない。

長い一夜の暗闇に向き合い、闇をくぐり抜けてゆくように、アルバムは最終トラック“告白”へと向かってゆく。「今」の新しいRADWIMPSではあるけれど、一方でこの作品は今後時間をかけて、暗闇の中を手探りで生きる人々に寄り添い、共にじっくりと「待つ」ための普遍的な価値をもたらすだろう。リリース前日の2016年11月22日(火)には、最新ツアーの詳細も発表される予定だ。(小池宏和)
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