今週の一枚 the HIATUS『Hands Of Gravity』

今週の一枚 the HIATUS『Hands Of Gravity』

the HIATUS
『Hands Of Gravity』
2016年7月6日(水)発売

ロックへの信頼と、リスナーへの信頼がなければ成立しないアルバムだ。前作『Keeper Of The Flame』からは2年が経ったが、その間に細美武士はMONOEYESを結成し、ひたすら全力疾走という時期を過ごしてきた(しかも絶讃継続中である)。現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN 2016年8月号』のインタビューによれば、細美にとってMONOEYES楽曲と今回の『Hands Of Gravity』は、互いに緊密な関係を持った作品なのだそうだ。

とはいえ、のっけから聴き手を覚醒させるには十分な柏倉隆史のビートに、重厚なピアノ、幽玄のギターサウンド、そして奔放に蠢めくベースラインが重なってゆくオープニング“Geranium”からして、聴こえてくるのはthe HIATUSでしかありえない音像である。先鋭的であることを恐れず、持ちうる技量のありったけを注ぎ込み、ロックアンサンブルの可能性を信じながら突き進んでゆく。この楽曲を導入部に持ってくるのは英断だ。今回はリードシングルもリリースされていないので、ほぼすべての人が“Geranium”で最新のthe HIATUSと向き合うはずなのだが、この挑戦的なアンサンブルを受け止められると信じているのである。

さらに、これまではライブ時のthe HIATUSに感じることの多かった、あの巨大な音の怪物のごとく「個」の存在としてのたうつバンドの姿が強く浮かび上がってくる。曲調はさまざま、演奏の自由度も高いのに、何かに立ち向かうように、あるいは何かに追い立てられるように同じ方を向いていて、不思議なほど一体感が乱れないのである。アルバムタイトルは『Hands Of Gravity』(重力の手)。得体の知れない、重くのしかかるような逃れられないもののイメージを抱かせる。しかしそれは決してマイナスのイメージばかりではなく、the HIATUSのスリリングな音楽を支える神秘的な力でもあるのかもしれない。

高度なリズムのコンビネーションを軸にした曲調があれば、グッドメロディに情感がクッキリと浮かぶ曲調もある。繰り返し聴くたびに、心にヒットする曲が違っていたりする。聴きながらこの原稿を書いている今は、《地下には/俺たちの秘密がある》(歌詞対訳より)というフレーズとスリリングな音にワクワクさせられる“Secret”がいい。アンサンブルの先鋭的な発明そのものが目的なのではなく、あくまでも感情表現の手段として発明を利用している点が、このアルバムの一貫性を支えているように思う。意志を帯びた5人の音と言葉が、苦しみ、耐え、打ちひしがれ、解き放たれる。そのすべてを見届け、味わい尽くしてほしい。(小池宏和)
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