今週の一枚 エイフェックス・ツイン『チーター EP』

今週の一枚 エイフェックス・ツイン『チーター EP』

エイフェックス・ツイン
『チーター EP』
7月8日(金)発売

『サイロ』から快調にリリースを続けているエイフェックス・ツインのニューEPで、ボーナストラック含め33分強、全7トラックを収録。作品を耳にする前に、エイフェックス・ツイン史上最もポップでカジュアルなジャケット・アートワークに驚かされたし、ファンの12歳少年を監督に起用したビデオ“CIRKLON3 [ Колхозная mix ]”は、渋谷の街頭ヴィジョンをジャックして公開された。

“CIRKLON3 [ Колхозная mix ]”ミュージック・ビデオ

音源の方は、一聴するとウォームなシンセ・サウンドを核にした端正なエレクトロニック・ミュージック集となっている。昨年の『Computer Controlled Acoustic Instruments pt2 EP』は、表題どおりに生々しく冷ややかに制御された音像からエイフェックス・ツインの偏執狂的な作家性が透かし見える内容だったが、今回のEPは『サイロ』の作風の延長線上にあると捉えて良さそうだ。

スムーズに通して聴けるEPだが、そこはエイフェックス・ツイン、一筋縄に行くはずもない。本作ではCheetah MS800というレアな上にプログラミングの困難なシンセ機材が使用されており、インフォメーションにはご丁寧にも「もし他の『チーター EP』ユーザーが高く評価するような素晴らしい音源やサウンドを生成できたら、それらのMIDIデータをディスクに焼いてWarpまで送ってください。もし私たちも素晴らしいと思えば、報奨を与えます」と記されているのだ。

そこではたと、近年のリチャード・D・ジェイムスが「家族」というインスピレーションの源泉を手にしていること、そして新曲のビデオでファンの少年をフィーチャーしていることを思い返す。彼は子供たちをターゲットに、最近の作品群を生み出しているのではないか。『サイロ』の時点でも朧げにそんな気はしていたが、『チーター EP』は明らかに教育効果を期待している。理想的なファンをモデルに、エイフェックス・ツインの何たるかを「教えている」のだ。

これはとてつもなくヤバいことだ。悪意の底知れなさに震え、笑いがこみ上げてくる。エイフェックス・ツインの意志を若年層に増殖させるという、最悪のエリート教育なのである。こんな恐ろしい玩具に出会ったのは、小学生のときにプレイしたファミコンの『たけしの挑戦状』以来だ。あなたの家のお子さんが、夜な夜なエイフェックス・ツインに夢中になっていないか、よく見ておいた方がいいと思う。(小池宏和)
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