今週の一枚 チャーチズ 『ラヴ・イズ・デッド』

今週の一枚 チャーチズ 『ラヴ・イズ・デッド』

チャーチズ
『ラヴ・イズ・デッド』
5月25日発売


チャーチズの2年8ヶ月ぶりの3作目がリリースされた。『ラヴ・イズ・デッド』と題された内容は、間違いなくチャーチズ史上最高レベルのポップ・アルバムとなっている。

もっともチャーチズはもともとポップなバンドであり、これまでと何が違うのかという疑問も当然あるだろう。だが違うのだ。チャーチズは『ラヴ・イズ・デッド』で、これまでの彼らとは異なるレベルのバンドに変貌/成長したのである。

彼らの魅力はローレン・メイベリーのチャーミングなボーカルと、80’s風のアナログなエレクトロ・ポップ・サウンドの融合にあった。いわばポップ・アイコンとしてのローレンを、イアン・クック、マーティン・ドハーティというふたりのレトロなシンセ・サウンドが引き立てる形だ。初めて彼らのライブを見たのは2013年のサマーソニックだったが、その時はまだぎこちなく緊張気味で、ローレンはまだグラスゴーのインディ・ロックの自意識の仮面をつけたままに見えた。しかし2016年2月、前作『エヴリ・オープン・アイ』のツアーで単独来日した時の彼女は、見違えるほどのプロフェッショナルなボーカリストとして、見事なエンタテイナーぶりを披露していた。ただその時も、イアンとマーティンの作り出す80'sシンセ・ポップは変わらなかった。あえてコンテンポラリーな時代性に背を向けたレトロなサウンドに、これは彼らのこだわりなのかと思ったものである。言ってみればその頃の彼らはまだ良くも悪くも趣味的なカルト・バンドだった。

だがそれから2年がたち、彼らはそれまでの自分たちの殻を破り、新たな次元に突入したようだ。『ラヴ・イズ・デッド』のプロデューサー(13曲中9曲)はグレッグ・カースティン。2年連続でグラミーの最優秀プロデューサー賞を受賞した売れっ子であり、カイリー・ミノーグシーアテイラー・スウィフトアデルといった女性アーティストを数多く手がけたほか、ベックの最新大傑作『カラーズ』を担当した才人だ。ベックの片腕としてコンテンポラリーなテン年代のロックを演出し、かつ旬な女性ポップ・ボーカルの扱いに長けたカースティンの起用の狙いは明らかだろう。セルフ・プロデュースにこだわり他人とのコラボの話があってもすべて断ってきたという彼らも、前作が初の全米トップ10入り(8位)となり、勝負の3作目にあたって、それまでとは決定的に異なる飛躍を期してカースティンを起用したに違いない。カースティンはプロデュースだけでなくソングライティングでも全面的に参加している。

もともとのチャーチズの原点でもあるレトロなシンセ・ポップをいかに色を薄めずコンテンポラリーにブラッシュアップして、ポップス、R&Bやヒップホップ全盛のシーンに於いて有効な武器とするか。群雄割拠の女性ポップ・ボーカル全盛時代に、ローレンの魅力をいかに際立たせるか。そして実際に仕上がったサウンドは、まさしくチャーチズ本来のエレクトロニック・ポップを趣味的なインディ・ロックの領域から一気に飛躍させるような開けたポップ・センスと同時代感覚が漲っている。楽曲の構造自体にそれほど変化はないが、粒立ちのいい録音の歯切れのいい音色、クリアで分離のいい歌が際立つミックスが映える(ミックスはエド・シーラン『÷(ディバイド)』 / テイラー・スウィフト『レッド』などを手がけたスパイク・ステント)。メインストリームで勝負するに相応しい、最新のR&BやEDMにも通じるキレのいい音像を睨みながらも、彼ら本来の音楽性と、グラスゴー出身らしい素朴で生成りの良さを失わない絶妙のバランスを実現し、ローレンのキュートな声の魅力を最大限に活かしている。間違いなくカースティンの功績だろう。

さらに見逃せないのは、ユーリズミックスデイヴ・スチュワートとのコラボだ。アニー・レノックスという類い稀な歌唱力とビジュアル、存在感を持った女性ボーカルと、スチュワートという卓抜したソングライター/プロデューサーが手を組んだユーリズミックスは、最先端のアート性の高い英国テクノ・ポップ~ニュー・ウェイブの方法論やテイストを、マドンナプリンスマイケル・ジャクソンが全盛期を迎えていたアメリカのメインストリームのロック/ポップに接続し、大きな商業的成功を手にしたバンドである。結果的にチャーチズとスチュワートのコラボはアルバムに収録されることはなかったようだが、バンドのあり方という点で深い影響を与えたようである。

そしてこのアルバムを引っさげ、バンドは初のフジロック出演が決まっている。5年前のサマーソニックとは比べものにならないほど大きなステージで、成長したチャーチズの姿を確認できるはずだ。それまでは『ラヴ・イズ・デッド』を聞き、彼らが歌う愛と死という人生の両面を繋ぎ、隔てるものについて思いを馳せながら、その日を待つことにしよう。(小野島大)
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