今週の一枚 ジェイムス・ブレイク『ザ・カラー・イン・エニシング』

今週の一枚 ジェイムス・ブレイク『ザ・カラー・イン・エニシング』

ジェイムス・ブレイク
『ザ・カラー・イン・エニシング』
6月24日(金)発売

5月頭にサプライズ・リリースされたジェイムス・ブレイクの新作『ザ・カラー・イン・エニシング』は、フィジカルの日本盤が6月24日に発売される。トータル1時間16分、全17曲に及ぶ内容だ。当初のアナウンスからは1年以上リリース時期が後ろ倒しとなったが、結果的には納得のヴォリュームと言える。ポスト・ダブステップ時代のエレクトロ・ソウルが洗練を極めた一枚と言えるだろう。

過去2作のアルバムが好評を博したことは、彼の自信に直結していたように思える。だが、本作から聴こえてくるものはむしろ、ある種の切迫感であり焦燥感だ。先に敢えて「ポスト・ダブステップ時代のエレクトロ・ソウル」とざっくりカテゴライズしたが、それは間違いなくジェイムス・ブレイクの登場によって幕を開けたポップ・ミュージックの新時代であった。彼はそのトレンドの中で、自我を切り取るような表現が安易に消費されることを恐れていたし、憤っている。例えば、エレクトロ・ハウスの新時代を作ってしまったダフト・パンクがそのトレンドをリセットするまでに要した時間と紆余曲折を思えば、ジェイムス・ブレイクの苦悩も想像に難くない。

『ザ・カラー・イン・エニシング』の中に渦巻いているのは、愛に彷徨い続けてきたジェイムス・ブレイクの、この孤独の痛みだけは誰にも侵されたくはない、という潔癖な思いであり、執念である。ボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンや、フランク・オーシャンという歌声の個性を招いたトラック群は大きなトピックではあるけれども、やはり個の主張というアルバム全体のテーマの中にしっかりと収まっている。容易く移ろうポップ・ミュージック・シーンの潮流の中で、自分の音楽はよりタイムレスなものであるということ。替えの利かない、自分自身に他ならないのだということを、彼は伝えている。

ボン・イヴェールとの“I Need a Forest Fire”は《自分の周りに壁を作ってしまう前に止めてくれ》という破滅寸前のリフレインに行き着いてしまうし、美しさゆえに痛ましいピアノ曲となったタイトル曲では《ある日目覚めて何の色彩も分からなくなっていたら、それをどう伝えようか》と歌われる。ビヨンセの最新作にも客演するほどのアーティストに成長したジェイムス・ブレイクだが、狂騒に揉まれるスターとなっても、彼の孤独は救われていない。その声はただ純粋に、聴いてくれ、と響くばかりだ。(小池宏和)
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